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DECCAサウンドの秘訣
2016年05月08日
 
レコード好き誰もが認める英DECCA盤の音の良さに関して、そのひとつの裏付けとなる証言をご紹介させて頂きます。

音元出版の「analog」誌に載った内容ですからご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、長年キングレコードのエンジニアを務めた菊田俊雄氏に現役当時の話を聞く連載記事の中の一部です(一部抜粋):

キングレコードと英デッカとの原盤契約が成立したのが'53年だが、、それから長年にわたってクラシック曲に関してはメタル原盤(メタルマザー)しか渡されなかった。
メタルマザーからスタンパーを作るのだが、メタルマザーはスタンパーを何枚も作っているうちに壊れてしまう。そこでテープにして欲しいと頼むのだが、音質が変わってしまうからという理由でなかなか許可してくれなかった。
そこでキングでは度々、洋楽部からテストカットのためのテープを送って欲しいと交渉を重ねた結果、やっとマスターテープのコピーを送ってもらえることになった。

菊田 「マスターテープが到着した時、レコードがあんなにいい音なのだから、より原音に近いテープはさぞかし素晴らしい音が聴けるだろうと思ったのです。しかし、予想は完全に外れ、思っていたような美音ではなかった。レコードのほうがずっといい雰囲気の音なのです。」
菊田氏のかねてからの持論は「一番音がいいのはマスターテープではなく、きちんと仕上げられたレコード盤」というものだが、デッカのレコードはまさにこれを実証したことになる。

菊田 「デッカのクラシックは全体の周波数特性を大幅に変えるようなことはしていませんが、盤の再生状況を想定してカッティングの調整はしているようです。再生針先のトレーシングを考慮して、やたらに高域を伸ばすことで発生する害のある音を防止したり、位相特性や過渡特性など単なる周波数特性以外にも配慮されているようです。
ラッカー盤にカッティングする過程でも溝の切れ味や深さで聴感的には大きく変わりますが、特性の数値上には表れることはありません。つまり職人技の範疇となります。
デッカのレコードでも単に忠実にレンジを拡げるという方向ではなく、60~10kHz位までの音を重視してきちっと仕上がるように配慮されています。要するに音楽にとって最も大切な情報が、この帯域にちゃんと入っているのです。なかなかうまい音づくりだなと感心させられることが多いですね。」

そう伺うと英デッカはオリジナルのサウンドに対する思い入れが他のレコード会社より強いように思える。
菊田 「デッカから送られてくるマスターテープにはA面の頭に必ず40~16kHzまでの信号が細かく入っていて、この帯域がフラットになるように調整してカッティングすることになっていました。マスターテープを再生する場合、1本ずつテープレコーダーのヘッド・アジマスや位相を調整してからカッティングする必要があります。私の経験ではコピーテープにまで細かくリファレンス信号を入れていたのは英デッカ以外には見たことがありません。」
デッカ・オリジナルのサウンドを少しでも変質させてはならないというわけだ。
(以上、音元出版「analog」Vol.51、「レコードの奥義を極める」から)