2018年04月16日
Gunter Loibl
全く新しいマスタリング技術(スタンパー制作)の登場です。
ヴィニールをプレスする「型」であるスタンパーを制作するには今まで;
1)アルミニウム板にラッカーをコーティングし、それにカッティングマシンのカッターを使って音溝を刻んで「ラッカー盤」を作る。
2)ラッカー盤は耐久性が無いので、表面に銀メッキとさらに厚いニッケルメッキをかけ、これを剥がすと凸型の「メタルマスター」が出来る。
3)メタルマスターに厚く銅メッキをかけて剥がすと凹型の「マザー」が出来る。
4)マザーにニッケルやクロムの厚いメッキをかけて剥がすと、ようやく凸型の量産用「スタンパー」が完成。
これだけの行程を経てようやくスタンパーが完成するわけですから、音溝の形状がわずかに鈍るのも当然と言えます。
それをHD Vinyl (High Definition Vinyl)では最初から直接金属スタンパーを刻んで作ってしまうというのです(実際は金属より硬いセラミック素材とコメントされています)。
新素材で超硬いカッターでも作ったの? いいえ、そうではありません、全くの発想の転換です。
3D地形図とレーザー加工技術を組み合わせた製造方法で、パソコンで生成した3Dモデリング・データでレコードに刻む音溝の形状を細かく調整する作業を行い、その後、そのデータをもとにレーザー彫刻機で溝を刻んでスタンパーを作るというのです。
つまりミクロの世界の山脈と渓谷の地形図を3Dで制作し、レーザーカッターでその通りの金属モデルを作る、というようなわけです。
まさに21世紀、現代のアナログ・レコード技術ではありませんか。
デジタル・データで刻んでいるからアナログ・レコードとは言えないんじゃないの? という声も聞こえてきそうですが、確かに基となる音溝の3Dデータはデジタルですが、マシンを動作させる操作データでしかなく、それによってレーザーで刻んで出来た音溝は物理的に連続した形状で、従来の音溝と変わることはありません。ただ、それが遥かに高精度で刻まれるということでしょう。
この画期的な特許技術を開発したのはオーストリアの音楽関連ソフトウェア開発ベンチャー、Rebeat Digital 。
同社は、この方法を採用することで、レコードをより正確に、また音声情報の損失を少なくして記録することが可能になるため、従来の方法で作られたレコードよりも、30%ダイナミック・レンジが広く、30%録音時間が長く、そしてより忠実な音の再生が可能なレコードが製造出来るとしています。
この新技術はまた、スタンパー素材の耐久性が極めて高いため摩耗が少なく、最初から最後のプレスまでほとんど劣化無しにプレスが可能。つまり初期プレスを血眼になって探す心配もない、ということです。
もちろんこの方法で出来上がったレコードは今までと何ら変わりませんから、HD Vinyl は普通のレコードプレーヤーで再生可能なのは言うまでもありません。
Rebeat Digital は、このHD Vinyl の技術に480万ドル(約5億円)の投資を受けたとされ、創設者でありCEOの Günter Loibl 氏(写真)は、HD Vinyl が早ければ2019年にも市場に流通する可能性があるとしています。
Rebeat Digital は、この新技術のために60万ドルの大型レーザーシステムを注文しており、7月までに納品される予定で、その後、テストや調整を行い、2019年夏頃に最初のHD Vinyl が店舗に並ぶ計画だそうです。期待して見守りたいですね。
(sources: amass, HD Vinyl, meinbezirk.at)