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[コラム] <font color="#cc9961"><strong>トーレンス</strong>、その歴史と今</font>
2024年05月28日
 


トーレンス再上陸を機に、その歴史と今を、現地からの資料を基にご紹介させて頂きます。

始まりと、最初の60年

THORENS トーレンスは、1883年、スイス・ジュラ地方のサン・クロワで産声を上げました。
創立者はヘルマン・トーレンス、オルゴールの製造会社からのスタートでした。

20世紀初頭には初のシリンダー式蓄音機を発表、数年後には円盤式蓄音機(グラモフォン)を発売します。その製造は現代まで続くターンテーブルに置き換わるまで続きます。
その間、サン・クロワの工場の一隅では、ハーモニカやライターも製造されていました。

1928年には蓄音機用に最初の電気モーターを発表、1年後に電磁発電式のピックアップが開発されます。
さらにリニアトラッキング動作のトーンアーム開発など、この頃ははるかに時代を先取りしていました。

1930年代には、ドイツのシュトラスフルト・インペリアル社との協力により、ラジオ受信機やターンテーブルを組み込んだ「ディスコフォン」と呼ばれるミュージック・キャビネット製造にまで製品範囲を拡大しました。
1920年の終わり頃には、従業員数は1,200人に上っていました。

レコード・プレーヤーで世界的地位を確立

1940年代からは、レコードのカッティングマシンやサウンドボックス(蓄音機のピックアップ)などの生産が始まり、その後、レコード・チェンジャーやラジオ受信機が続きます。
スプリングで動作する「リビエラ」シェーバーが数年間製造ラインに乗っていたこともありました。

とくにピックアップの開発は急ピッチで進められ、交換可能なサファイア針を備えたモデルが登場、当初100g 以上あった針圧が1952年までには10分の1まで減少していました。
また、CD43 レコード・オートチェンジャーは、初期の米国Hi-Fi 市場に足掛かりを築くことに成功しました。

1950年代後半にはLPレコード・プレーヤーの時代が訪れ、トーレンス・ブランドは世界的な認知と評価を得るに至ります。
1957年には有名なTD124 プレーヤーが登場、すぐに大成功を収めます。このモデルは放送局のプロフェッショナル用はもちろん、新たに登場したステレオLPレコードを最高の音質で再生したいと考えるホームHi-Fi 愛好家をも対象としていました。

その後数年間にTD124 から派生したよりシンプルなヴァリエーション・モデル群、TD134, TD135, TD184 が追加されました。
1962年からは、BTD-12S トーンアームをフルオート制御する複雑な機構構造をもつオートチェンジャー、TDW224 が少量ながら生産されました。
TD124 は1968年まで2つのヴァージョンが生産され、現在でも世界中に多くの愛用者が存在します。

1965年には、新たに、スプリング・サスペンションで吊るされたサブシャーシをもつTD150 が開発され、この時期に生産工場がスイスのサン・クロワからドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州の街ラールに移されました。
当時のラール工場ではEMT の製品も生産されていました。
1966年には新たにThorens-Franz AG となって、開発と生産拠点がラールに統合されます。

スプリング・サスペンディッド・サブシャーシが世界的成功を収める

1968年には、TD124 に代わり、TD150 のサスペンディッド・サブシャーシを受け継いだTD125 が登場。翌年には、トーンアームを改良したTD150 の第2世代機が発表されました。
1972年にはTD125 MkIIが登場し、TD150の後継機であるTD160 とともに市場に投入されました。

TD160 が1990年代まで改良を受けながらカタログに残っていたのに対し、1974年にはTD125 の後継機としてTD126 が発表されました。これはオリジナルのTP16 トーンアームの他にも様々なアームを搭載可能でした。

1978年以降、ドイツのSchneider-Rundfunkwerke 社(シュナイダー・ラジオ受信機会社の意)と提携を結び、一時エレクトロニクス機器にも進出しますが、提携解消により軌道は元に戻りました。
1979年には、コストと労力を度外視して開発されたあのThorens Reference が発売されました。

そして、1980年代

1980年代の初めには、実績あるTD160 ファミリーがさらなる発展を見せ、EMT の遺伝子を持つスタジオ向けモデル、そして2つの記念モデルTD147 Jubilee とTD126 Centennial が登場しました。
TD126には、ダブル・トーンアーム用TD226 とシングル・ロング12インチ・アーム用TD127 のヴァリエーションが追加されました。
これらのモデルに共通するのは、やはりサスペンディッド・サブシャーシです。

とはいえトーレンス社はこの頃、経営危機に陥っており、大規模なリストラを行っています。生産は一部外部に委託されていました。
その間経営体制は変遷しますが、ラールの工場設備は存続しました。
そろそろCDが台頭してくる、デジタルに移行するその前夜にあたります。

そうした中、デジタルの台頭に反発するかのように、もうひとつのスペシャル・モデル Prestige が発表されました。

1984年、トーレンスはそれまでの円錐型スプリングを備えたサブシャシーの設計原理を捨て、新しい300 シリーズでは3枚の板バネによってフローティングされたサブシャシーを採用します。
新しいモデルTD316,TD 318,TD 320 が投入され、そのトーンアーム・レスのモデルTD321 や、実績あるTD126 の後継機としてTD520 が追加されて好評を博しました。
この頃には、低電圧でのモーターの電子制御も行われるようになりました。

1980年代末に発表されたTD2001 とTD3001 は、TD160 S MkV とともに、世界市場で強い競争力を持つトリオとなりました。

1980年代にはコスト面から、初めてサスペンディッド・サブシャーシを搭載しないモデルが発売となります。TD280 シリーズはサブシャーシを持たないリジッド・タイプのプレーヤーとして発売されました。
それに続くTD180,TD290 も同じ構成で、それ以降トーレンスでは、スプリング・サスペンディッド・サブシャーシは廃止されました。

1990年代、そして終焉

1990年代はご承知のとおり、CDの台頭でレコードの売り上げは激減、当然ながらプレーヤーも売れなくなり、どのプレーヤー・メーカーも大苦戦を強いられました。
高級プレーヤーを中心としていたトーレンスも例外ではなく、経営は悪化、更なるリストラが必要とされました。長年住み慣れたラール工場を離れて移転を余儀なくされます。

新しいエントリー・モデルが市場に投入され、生産は簡素化、一部は外注化されました。
1993年にラール工場を閉鎖、生産は当初ポーランドに移されましたが、後に小規模ながらドイツに戻りました。
高級路線の新規開発は断念され、実績のある売れ筋モデルの更なる開発が優先されました。
TD160 シリーズはモデルMkV で終了し、TD3001 はトーンアーム・レスのBC モデルとして登場しました(板バネ・サスペンションを搭載)。

1990年代にはRestek 社と提携し、ドイツの新しい拠点でエレクトロニクスやスピーカーの開発を行っています。
しかし、残念ながら2000年のThorens Vertriebs GmbH の倒産により、トーレンスの第1の時代が終わりを告げました。

2001-2018、第2世代

倒産によってトーレンスの歴史が終わったわけではありません。ノウハウ,完成品,半完成品,スペアパーツなどは風前の灯火となりましたが、高品質,エンジニアリング,長寿命,信頼性,そして優れた価格性能比の象徴である、このブランド自体は生き続けました。

1990年代にすでにアジアでの販売を担当していたスイス人実業家のハインツ・ローラーがこのブランドを買収し、新たなオーナーとなります。
その後、様々な開発者が設計し、ドイツで生産された新製品が市場に投入されました。
900 シリーズではサブシャーシを導入した優れた製品でしたが、如何せんかなり高価でした。
さらに、TD2015 とTD2035 のAcryl Line シリーズは、デザイン志向の新しい顧客にアピール。

2018年4月、ハインツ・ローラーは後継者不在の理由により、トーレンスを当時エラック・エレクトロアクースティック社のCEO であったグンター・キュルテンに売却しました。

2018~、第3世代の今現在

そして2018年5月1日、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州の都市ベルギッシュ・グラートバッハに新たに設立されたThorens GmbH がスタート。
「ブランドはドイツに戻ってきた!」 これは新オーナーのキュルテン氏の偽らざる気持ちだったでしょう。
彼は、方向を見失っていたトーレンスを、その伝統的DNA を見極め、トーレンスの本質とは何なのかを見定めて、本来あるべき姿へ速やかに回帰すべく、情熱あるリーダーシップをもって舵を取っています。
それは決して復古ではなく、現代のトーレンスのあるべき姿を目指す、新たな航海の始まりです。

「新生トーレンス」はまだ創立6年ほどですが、確実に信頼を取り戻しつつあり、ドイツでのシェアは現在40% ほどになるそうです。
キュルテン氏の言葉通りの、「これはトーレンス」と自信をもって日本にも紹介出来る今回のラインナップが揃ったことで、いよいよ再上陸の準備が整いました。


最後に、新生トーレンスを支えるキーパーソンをご紹介します:


Gunter Kurten, owner, CEO

立役者は何と言っても新オーナーのグンター・キュルテン氏 Gunter Kurten。
今までに、SONY,LG,Sharp,Denon & Marantz の現地法人、そして前職ではELAC Electroacustic GmbH のCEO として辣腕を振るい、同社のアナログ・プレーヤーMiracord 復活の立役者ともなりました。やっぱりアナログ・プレーヤーが好きなんですね。

そのELAC に、トーレンス売却の話を前オーナーのローラー氏が持ち掛けたところ、ELAC 社長であったキュルテン氏が自身で買い受けることを申し出て、新生トーレンスがスタートすることになりました。
キュルテン氏はELAC を退職、新たにオーナー兼CEO としてトーレンス再出発の陣頭指揮を執ることになったのです。
規模も大きく、順調に運んでいたエラックの経営から敢えて離れ、自ら資金を投入して低迷している名門ブランドのテコ入れを買って出たのは、何よりも彼のトーレンスに対する愛情からでした。
彼自身、トーレンス往年の名器たちを愛用していましたから、自国の名門ブランドを立て直すのには使命のようなものを感じていたのでしょう。少なくともどうすればよいかをよく分かっていました。

とはいえ、前の会社から人材や資材、設備などを引き継ぐわけではなく、全くのゼロからのスタートですから、まず信頼出来る人材が必要です。ただ優秀なだけでなく、トーレンスの何たるかをよく理解していることが肝要でした。


Helmut Thiele, mechanical designer


Walter Fuchs, electrical designer

ここで、キュルテン氏を支える仕事人二人の登場です。
ヘルムート・ティーレ Helmut Thiele とワルター・フックス Walter Fuchs。
彼らはともにかつてトーレンスで活躍していたヴェテラン設計者で、ティーレ氏が機構設計、フックス氏が電気設計の専門家です。彼らは言われるまでもなく、やるべきことは十分に分かっていました。

この二人が実際の製品づくりのキー(R&D チーム)となって、比較的短期間のうちに充実したオリジナル・デザインのラインナップが揃うことになります。
とくにティーレ氏はメカニカル・デザイナーとしてアナログ・プレーヤーの設計で多くの実績を持つ専門家で、トーレンスでサスペンディッド・サブシャーシ・プレーヤー設計も手掛けており、今回のプロジェクトでは欠かせない存在でした。
新しい3つのアーム、TP150,TP160,TP124 も自慢の作品ですし、早くも最近、画期的なNew Reference プレーヤーを完成させています。
彼は自身の名を冠したハイエンド・ターンテーブル・メーカーを主宰してもいます。

フックス氏はドイツ国内でも著名なエレクトロニクス・エンジニアで、今回もダイレクトドライヴを含めたモーター制御、電源、コンパクトなオートリフター、更にはファームウェアまでを担当しました。

キュルテン氏が目指すべき指針を示し、それに沿ってティーレ氏とフックス氏が二人三脚で開発を行う、この新生トーレンス・トリオこそ同社を支える原動力、今後も期待したいところです。


Kurten and Thiele with New Reference


Thiele machining parts of prototype


Kurten and Fuchs




in the factory