店主日誌
'15東京インターナショナルオーディオショウ聴き歩き
2015年09月27日
初日の金曜日に、東京フォーラムで開催されている恒例の東京インターナショナルオーディオショウ行ってきました。
いつもは一人で気ままに行きたいところを目当てにぶらぶらするのですが、今年は学生時代からの友人の誘いを受け、初めて2人連れでの見学となりました。
いい年のおじさんが二人連れだってというのは、どこであっても傍から見るとうっとうしい以外の何物でもありませんが、気兼ねなく連れショウ出来る数少ない機会がこうしたオーディオショウでしょう。改めて見回してみるとそうしたペア(?)がちらほらと。
さてそんなわけで、今回は彼の次期主力戦闘機、いや次期主力パワーアンプの品定めも兼ねていますので、それらも網羅しなくてはなりません。いつもはそれ程注意して見ていないハイエンド・ソリッドステート・パワーアンプが中心ですが、魅力あるジャンルですのでこの機会にクローズアップして回ってみましょう。
どの階から行く?と訊くので、いつも通り上のほうから、まず6階。
最初に入ったのがエレベーター脇のフューレンコーディネート。
昨年はとんでもない規模のスピーカー、PIEGA のMaster Line Source がそびえ立っていましたが、今回は同じトップラインでも外観はずっと普通の(価格は普通ではありませんが)Master One が室内楽を大変優美に奏でていて、ピエガのイメージにピッタリでした。
その後、ソースがアナログレコードになって曲はドヴォルザークの交響曲第7番。何気なく取り出したこれが大変な貴重盤で、ルーマニアの名匠シルヴェストリの指揮するウィーン・フィル、ステレオ初期の白金レーベル・オリジナル盤です。
さすがにウィーン・フィルの弦のしなやかさが存分に再現されましたが、この指揮者独特の熱さは少しヒートダウンして進行、このスピーカーではやはり最新デジタル録音や飛び切りのハイレゾ音源などのほうが真価発揮となるようです。
同じピエガでも後ろのほうに控えていたClassic シリーズでも聴いてみたかった。
アンプ類は真空管アンプで評価の高いドイツOCTAVE。ピエガの持ち味を引き出しながらしっかりと自己も表現するアンプで、良い意味で真空管アンプらしくないところも優秀さを示す証。
友人の頭には真空管アンプはほとんどインプットされていないでしょうが、これは候補のひとつに入れてよいでしょう。
次に耳に留まったのが太陽インターナショナル・ブースのスピーカー、AVALON。
これは毎度のことで、店主お気に入りのスピーカーのひとつです。
デモソフト選択のうまさもあって幽玄とでも言いたくなる理想的な音場が立ち現れていました。
人混みで後ろからよく見えませんでしたが、鳴らしていたのはJEFF ROWLAND のアンプ類でしょう。相性は良好、冴えたサウンドを聴かせてくれました。
この階の反対側の端に大きなブースを構えるのはESOTERIC。ちょうど11時からTANNOY の本国担当者によるデモがあるということで、同社スピーカーをじっくりと聴いてみたいという同行者の希望です。
ステージ上に堂々たる威容を誇るのはトップモデルのKINGDOM ROYAL。真っ黒でしたから特注のカーボンブラック仕様です。
さすがに最上級機だけあり文句のつけようもないほど素晴らしい。ほとんどがロック,ポピュラー系ソースでしたが全くジャンルの別なくこなし、唯一クラシックのコープランド「市民のためのファンファーレ」は圧巻。金管の咆哮と大太鼓の連打を涼しい顔をして実演さながらのダイナミックレンジで聴かせるのには感心しました。
但し実使用においては広大なリスニングルーム(と一千万円超のポケットマネー)が必要でしょう。
1階降りて5階ではまずTRIODE。
昨年カナダのハイエンド・ターンテーブル、CRONOS の輸入を開始してからデモソースはほとんどがレコードに。今回の山崎氏による音出しにも一層力が入り、それに応えるかのようにSPENDOR の最上級機SP100R2 が飛び切りの鳴りっぷりを披露。とくに「We Are The World」は今さっき録音されたかのような鮮度感で鳴っていました。
そしてホットな朗報が。
まだ価格等も未定で参考出品ながら、伊GOLD NOTE 社のアナログ・プレーヤー輸入がほぼ決まっているそうで、実は店主もこのメーカーの日本上陸を心待ちにしていたので嬉しいニュースでした。
こちらは20万円台あたりからと、ずっと身近なラインナップも揃うそうですので、乞うご期待!
エレクトリではMAGICO をお馴染みのPASS アンプで。たまたま音出しはしていませんでしたが、ニューカマーの大きなS7 を展示。
今までのモデルに比べると馴染みのある丸みを帯びた形状ですが、フルメタル・ジャケットを纏うのに変わりはありません。
PASS のパワーアンプは有力候補でしょう。
ひとつ降って4階。
創業90周年を迎え絶好調のLUXMAN ブースは、予想してはいたものの扉を開いてビックリ。何とか部屋に入ることは出来ても扉の前にへばりついたまま一歩も動けません。注目の300B シングル・パワーアンプMQ-300 のお披露目があるはずですのでじっくり聴きたかったのですが、残念、そのまままずは退散。
隣はステラのブース、メインは皆さんよくご存じのエアフォース・ターンテーブルです。遂に100万円台に降りてきた3作目、エアフォース3 はまさにかつてのマイクロSX-8000 の生まれ変わりですね。
アンプではConstellation Audio のSTEREO1.0 も有力候補です。
隣りのロッキーインターナショナルでは、これまた新しいアナログ・プレーヤーのお披露目が。
ドイツのAcoustic Signature というターンテーブル専業メーカーで、スリムなプレーヤーから大型宇宙船のようなターンテーブルまで本国では12機種もの製品を揃えています。これは店主も全くのノーマークで今回のショウでは4,5台が並んでいましたが、いずれも初めてお目にかかる製品です。
一部を除いてまだ詳細は未定ですが、分かり次第私どもからもお伝えしていきたいと思います。
アーク・ジョイアのブースには同行者が最近導入したFranco Serblin のスピーカーによるデモがあるので立ち寄りました。
大きいほうのスピーカーKtema でDr.ファイキャルトのプレーヤーにレコードをかけてデモしていましたが、今年再びスターウォーズ新シリーズ始動ということで店主も一押し、メータ指揮ロス・フィルのスターウォーズ組曲、DECCA 録音盤が賑々しく始まりました。
見過ごされがちですが、この演奏はメータの中でもトップクラスの出来で、真のオーディオファイル盤です。
次にスピーカーを小さいほうのAccordo に入れ換えてギターのデュオがかかりましたが、これは雑誌などの評価通り本当に素晴らしい。名匠フランコ・セルブリン氏の生涯最後を飾るに相応しい作品であることを改めて確認。
またこの時かかったレコードが余りに良かったので、すぐに入手しました: パット・メセニー&チャーリー・ヘイデン「Beyond The Missouri Sky」、2枚組LP
隣りのノア・ブースでは新世代Sonus faber のOLYNPICAⅢが期待通り、室内楽の妙なる調べをフレッシュな香りを添えて届けてくれました。
このシリーズは今の同社を代表するスピーカーといってよいでしょう。
予定があって5時には発たなくてはならないので、この時点でもうあまり時間がありません。最後に空中通路を渡ってヨシノトレーディングに向かいました。
連れは、そろそろ聞きたい評論家氏の話が始まるので行くというので、ここで別れることに。「雑誌にあのような文章を書く人物が、実際にどのような話をするのか、その人となりを見ておきたい」と研究熱心な彼らしい動機です。
ヨシノトレーディングには今回初のお目見えという製品はありません。とにかくEAR にしろ、Nottingham にしろ、Clearaudio にしろ、製品寿命が長いので新製品が出るなんてたまにしかありません。なかでもEAR などは、「他に何か新しいものが要るの?」と訊き返されそうです。
そんなこともあって今回は「アナログの伝道師」、同社の壁谷氏の話には一段と拍車がかかり、一切自社の製品に関して触れることはありません。それでもボスの芳野さんは何も言わずにニコニコ。
毎度のことながらここではアナログ・ソース、つまりレコードしかかかりません。プレーヤーはそれぞれのトップモデル、Nottingham DECO とClearaudio Masterinnovation + TT3。
そしてその脇にさり気なく置かれているのが、ステューダーの2トラック1インチ(!)のプロ用アナログテープレコーダー。まずお目にかかることのない代物だそうで、国内のレコーディング・スタジオで稼働中のものをたまたまティム(デ・パラヴィチーニ)がメンテナンスする機会があり、それをきっかけにショウのために借用しての特別出品とのこと。後から考えると、これが今回の主役でした。こんなものが出てくるのもこのブース以外考えられません。
たまたま提供者であるエンジニア氏が居合わせたので、すぐにその場で彼とティムの即席トークセッションが壁谷さんの司会で始まりました。
お話はもちろんですが、それでは回してみるからちょっと聴いてみて、とティムがプレイボタンを押したとたん出てきた音に唖然。
ほとんど等身大のライヴが目の前で行われているかの錯覚に陥りました。
なるほど、これがアナログの究極ともいわれるスタジオレベルのテープサウンドね。まあ、ほとんどマスターテープを聴いているようなものだから当然ともいえるのですが、その有無を言わせぬ音の噴出に身を任せるほかありませんでした。
うーん、これは最後にヤバいものを聴いちまった、と逃げるように会場を後にしたのでした..。