今や世界的に評価の高いLyra ライラは、スティーグ・ビョルゲ氏が代表を務め、ジョナサン・カー氏の設計により三嶋敬宣氏が製作を担当、日本を拠点とするカートリッジ・マニュファクチュアラーです。
成功を収めた製品の後継機を生み出すのは常に挑戦です。
Etna にとってそれはいつもの倍の困難を伴いました。
主な目的は人気のモデル、Titan に代わる製品の開発でした。
一方でエトナ・プロジェクトにはもうひとつの目標、可能な限り高いパフォーマンスの達成が求められました。これはさらに上級のフラグシップ、Atlas を脅かすことになろうともです。
但しEtna はAtlas より大幅にコストを抑える必要があり、にもかかわらずフラグシップ同様のハイパフォーマンスを達成するために、エンジニアリングの効率性に重点を置いて設計されています。
そのため、Atlas とは一部同じデザイン哲学を共有していますが、実際のコンセプト達成方法はかなり異なっています。
Etna のボディは、可能な限り内部振動の反射を抑えるために平行面を避けた形状にマシニング加工されたソリッドチタンコア構造を採っていますが、Atlas(及びその前のTitan i)とは異なり、ジュラルミン・アウターボディに、ジグソーパズルのようにピッタリ勘合するコアが組み合わさってロックされる構造となっています。
コアとボディはブロンズとステンレススチールの共振制御ロッドで強固に一体化されており、全ては複合材料の複雑な形状から成るソリッドな構造体に隙間なく組み込まれています。
応力によって締め込まれたこの構造のお陰で、各材質固有の振動は劇的に抑え込まれました。
スピーカーやフォノカートリッジなどのトランスデューサーは本質的に非効率なデヴァイスであり、実際その効率は5〜10%ほどです。レコードをかける時、音溝の振動から電気信号に変換されるエネルギーは5〜10%だけということです。
カートリッジ内部のダンピングシステムは残り90〜95%のうち一部を消費しますが、あり余った振動エネルギーの多くはカートリッジ内部で反射し、内部共鳴,不要共振を引き起こして音質の劣化を招きます。
試しに広い周波数帯域を含むレコードをかけて、アンプを切ってスピーカーから音が出ないようにしたうえで、カートリッジに耳を近付けてみてください。
小さいですが結構賑やかに針音が聞こえるはずです。これは皆、電気信号に変換されずに残った余剰エネルギーということになります。
この余剰振動エネルギーをヘッドシェルに伝えて逃がし、それをより質量のあるトーンアームやプレーヤーの本体プリンツで拡散・終息させるために、Lyra はカンチレバーを直接カートリッジのボディに取り付ける方法を採って来ました。
Atlas の開発中に、カンチレバーからヘッドシェルまで切れ目なく続く経路で結合することに加えて、その経路からすべての障害物と隙間を除くことで、さらに良い結果を得られることが分かりました。
これを受けて開発されたのが、Atlas の非対称構造です。
これは、フロント・マグネットキャリア,固定用ビスを、カンチレバー⇔ヘッドシェル経路の邪魔にならないように外して配置するのが目的です。
Etna も同じ非対称コンセプトを採りますが、Atlas がビスを片側に寄せて配置するのに対し、Etna はビスを前面のずっと上端に移動し、ビスと経路の間にブロンズのダンピング・バリアを挿入することで解決しています。
また、不要振動を効果的に素早くヘッドシェルに逃がすために、ボディをヘッドシェルに固定する際に接触する面積を小さくしています。
Etna はヨークレス・デュアルマグネット・システム,ダイヤモンド・コーティッド・ボロンカンチレバー,特殊ラインコンタクト・スタイラスを採用、カンチレバーは直にチタンボディに固定されています。
カンチレバーとチタンボディのコアは、互いにダブルナイフエッジ接合のように結合し、接合部に圧力を集中することで一種のコールドウェルド(冷間圧接)のような効果を生んでいます。
Titan のそれより剛性の高いこのカンチレバー固定方法によって、スタイラスと発電コイルから不要振動を速やかに追いやり、振動の反射を抑え込んで、歪と共振を大幅に低減しています。
もうひとつ大きな特徴が高効率のX字型発電コイルで、これはフラグシップのAtlas と共通です。
従来の角型コイルと比べて、X型コイルは各チャンネルが互いに独立して動作するため、セパレーションの向上、クロストーク歪の低減などが期待出来ます。
確かに他にもX型コイルは存在しますが、変換効率の低下,内部インピーダンスの高いコイルの重量増,出力電圧の低下などの弊害を生んでいます。
Lyra はこうしたX型コイルの弱点を克服すべく、数学的解析と実地試験を並行して行い、徹底した調査を実施しました。
その結果得られた特殊X型コイルは従来のそれを上回る高効率を示したばかりではなく、角型コイルをも超える効率を得ることが出来たのです。
いたずらに高い効率を高出力に充てるのではなく、一部を高出力に(Titan より12%高い)、さらに一部はコイルの巻き線量を減らすこと(Titan より22%少ない)に充てています。
巻き線数が減ればコイル重量が減り、トラッキング性能が向上します。また、出力が増し内部インピーダンスが減れば、フォノアンプへの負担が減少してパフォーマンス向上に繋がります。
MCカートリッジの発電コイルは、再生時の適正針圧がかかるときに最大の発電効率を得るため磁気回路と同じ角度になくてはいけませんが、多くのカートリッジが抱える大きな問題のひとつは、針圧をかけない(針を盤に載せない)フリーの状態で適正な位置にコイルが配置されていることです。
これではいざ針を落としてレコードをかけると、針圧でコイルは適正な位置からずれてしまい、最適な発電が出来ないことになります。
Lyra の「ニューアングル・テクノロジー」は、この問題を新しいボディー構造と予め角度をつけたダンパー・システムで解決しました。
プリアングルド・ダンパーは、適正針圧がかかったときに発電コイルが磁気回路に対して最適な位置に来るように設計されています。
この技術は新しいエントリーモデルであるDelos で導入され、もちろんEtna にも採用されています。
発電方式: MC型
出力: 0.56mV (5cm/sec)
周波数特性: 10〜50,000Hz
インピーダンス: 4.2Ω
負荷インピーダンス: 5〜15Ω (MC昇圧トランスに接続する場合), 104Ω〜887Ω (フォノアンプのMC入力に接続する場合)
チャンネルセパレーション: 35dB以上 (1kHz)
コンプライアンス: 12×10-6cm/dyne (100Hz)
適正針圧: 1.68〜1.78g (1.72g 推奨)
スタイラス形状: 特殊ラインコンタクト、3μm x 70μm
カンチレバー材質: ダイアモンドコーティッド・ソリッドボロン
コイル素材: 2層、6N OFC、特殊X型コア
ボディ材質: 複合材料構成(チタン、ジュラルミン、ブロンズ、ステンレススチール)
重量: 9.2g