from LITHUANIA
Reed リード社は'07 年創業、リトアニア共和国のアナログ・プレーヤー関連専門メーカー。
創業者でオーナーであるVidmantas Triukas ヴィドマンタス・トゥリウカス氏が設計も中心となって行っています。
トゥリウカス氏はかつて音響,超音波の分野での研究に従事しており、ソ連時代の軍事部門での研究では、長距離弾道ミサイルにおけるプラズマに起因する音響ノイズのテーマに取り組んでいました。
同時に1985年からはハイファイ・オーディオ分野で電気・通信技術のスペシャリストとして研究・開発を進めてきましが、1987年(ソ連邦崩壊は1991年)、モスクワで開かれたソ連邦最大の技術見本市にターンテーブル,アンプ,スピーカーからなるオーディオ・システムを出品したところ、銅賞を受賞。
2007年にはReed 社を創業、約1年の開発を経て最初のリード・トーンアームを発表しました。
一方、氏は美術にも造詣が深く、1980-82年にはロシアの古都サンクト・ペテルブルクで美術史を学んでいます。
リード社は現在でも5人で運営される小さな技術集団、独創的な発想で彼らをけん引するのがトゥリウカス氏です。
リードがレーザーによる制御技術とリニアモーターを組み合わせてリニアトラッキングアーム同様の動作を行うタンジェンシャル・トーンアームReed 5T を発表したのはまだ記憶に新しいですが、今度はそれとほぼ同等な動作を、動力や制御装置を用いないで全てメカニズムの連携動作だけで行うアーム、Reed 5A が発売となりました。
T5 というあれだけ独創的な製品を完成させながら、それをまた違った手法で実現出来ないかと考え、早くも製品として完成させてしまう。トゥリウカスさんという人は、常識や慣習にとらわれず、柔軟な発想をもつアイデアマンであると同時に、今回のReed 5A を見ると学究的・論理的な発想・見識に溢れる人物なのだろうなあ、と思わずにはいられません。
Reed 5T ではレーザーにより位置検出をして電子制御、モータードライヴで正確にアームの位置を導く、という複雑な機構が必要ではあるものの、考え方としては分かり易かったのですが、さて今回はモーターなどの動力や電気的な制御機能などアクティヴな機能を一切持たずにパッシヴなメカニズムの動きだけで同等の動作を行うという難題に挑み、見事完成をみたのがReed 5A です。
ここで元になっているのは純粋な数学的ソリューション。
ベースとなるのは5T や他社のタンジェンシャル・アームでも今やお馴染みの「ターレスの定理」。これに加えて「ダブル・バーチ・ジオメトリー」という幾何学原理を組み合わせて、最小限の機械要素でターレスの定理に沿った動作を実現しています。
下の図がその動作原理ですが、基本はターレスの定理(「直径に対する円周角は常に直角である」= 直径A,Bを1辺とする三角形のもうひとつの頂点Cを同じ円の円周上にとると、角Cの角度は90°となる)ですので、比較的理解し易いと思います(大きな図はページの一番上にある写真の7枚目を参照):
図で、P1-P3 を直径とする円がターレスの円で(中心がO1)で、レコード盤の任意の3点、内周A1,中央付近A2,外周A3 でその各点での同心円を描き、アームの中心線(図中、オレンジの直線)と、レコード盤中心P1 と各点を結ぶ直線がいずれも直角になることを示しています。すなわちレコード盤の任意の点において、アームの中心線はレコードの音溝に対して針先の点で接線となるわけです。これはまさにリニアトラッキングの針先の挙動と同じことになります。
● P1, O1, P3: ターレスの半円
● 角P1-A1-P3, P1-A2-P3, P1-A3-P3 はそれぞれ直角、90°
● A1-1B1,A2-1B2,A3-1B3 がトーンアーム部分(オレンジの線)
● 1B1,1B2,1B3: トーンアームの支点
● 1P2: 1B1, 1B2, 1B3 を通る円の中心点。これがバックリンク(緑の線)の回転軸
● 2P2: 2B1, 2B2, 2B3 を通る円の中心点。これがフロントリンク(青い線)の回転軸
● 1B1-2B1,1B2-2B2,1B3-2B3: トーンアームレバー(茶色の線)
ダブル・バーチ・ジオメトリーについては調べた範囲では詳細が分かりませんでしたが、輸入元によると特許の方式(既存)だそうで、上の図中、ターレスの半円に組み込まれた2つの小さな円に沿って動く2つのリンク、フロントリンク(青い線)とバックリンク(緑の線)、及びアーム後端から枝分かれしているトーンアームレバー(茶色の線)とによって導かれる動作のことを指していることには違いありません。
上図を分かり易い動画ににしたものもご覧下さい:
実際のアームの動作の画像はこちら⇒
https://media.eilex.jp/reed-5a.webm
ではReed 5A のトラッキングエラーは実際にどれほど小さいのか、を示したのが次のグラフです:
このグラフを見て、あれ?結構大きいじゃん、と思った方が多いと思います。でも、もう一度縦軸の角度の単位をご覧下さい。MOA(Minute of Angle)、つまり「分」。通常使う「度」の1/60が「分」です。角度の単位を「度」で描くとあまりに小さくて分かり難いので、ご丁寧に縦方向に引き伸ばして「分」単位で示してくれているわけです。
グラフによると最大で4分弱ですから、1度の1/15程度となります。如何に小さいかがお分かりですね。
このトラッキングエラーを一般的なピヴォット型トーンアームのそれと比較したのが下のグラフです:
一般的なアームが緑(9インチ)と茶色(12インチ)で、ほとんどグラフの横軸と重なっている青い線がReed 5A です。今度は縦軸が「度」表示ですので、Reed 5A は横軸に重なってほとんど横一直線となっています。
リニアトラッキングにどれだけ近いかということで、以上のように如何にトラッキングエラーが小さいかに注目が集まりがちですが、実はそれと同じくらい重要な部分でこのReed 5A は問題をクリアしています。
リニアトラッキング動作をするタンジェンシャル・アームというのは既に他社からも発売されていますが(スイスThales,米Klaudio)、いずれもオフセットアングルを変化させることで疑似リニアトラッキングを行っています(=オフセットアングルがある)。そのため依然として針先には偏った力が加わり、インサイドフォースの発生も避けられません。
Reed 5A はご覧のようにオフセットアングルの無い完全なストレートアームですので、歪み成分の発生が極小で、インサイドフォースも発生しません。その意味で、リニアトラッキングアーム同等の動作を行う初めてのタンジェンシャル・アームと言うことが出来るのです(実際は少し先に同じリードのReed 5T が実現していますが)。
これがReed 5A のもうひとつ大きなアドヴァンテージ、音の良さの秘訣なのです。
しかし、これだけのリンクやバーを連結してガタの無いしっかりしたアームの支持構造を構成するのは至難の技に思えます。
でも実際にReed 5A を動かしてみるとガタとは無縁で、しかも何の抵抗も無く実にスムーズに稼働します。
その秘密は、ほとんどの可動接続部をモリブデン・カーバイド製のニードル(針)とそれを受けるサファイアカップで構成されるワンポイント・スラストベアリングで組んであるからで、これによりガタが無くリジッドで、かつ滑らかな回転軸を実現しています(フロントリンク軸受け,アームホルダーの縦および横方向回転軸,アームレバーの片側回転軸)。
その他のさらに強度を要する回転軸にはローノイズ・セラミック・ローリングベアリングを採用(バックリンク回転軸,アームレバーの片側回転軸)。
これらトータルで高い精度の可動機構を構成して、初めて十分な性能を得ることが出来ました。
オプションで一般のヘッドシェルが取り付け可能なユニヴァーサルヘッドシェル仕様とすることが出来ます(価格別途)。
仕上げカラーは標準のシーシェルホワイトの他にも、ブラックとシャンペンカラーもお選び頂けます(すべて同価格)。
設置距離: 251mm
トラッキングエラー: ±0.06°以下
有効質量: 16g
適合カートリッジ重量: 4.5〜19g
高さ調整範囲: 26〜46mm 高のプラッターに適合
VTA 調整精度: ±0.2mm
アジマス調整範囲: ±8°
出力端子: 5PIN DIN
トゥリウカス氏による製品紹介動画もご覧下さい:
https://media.eilex.jp/reed-5a1h-presentation.webm