AIR TIGHT エアータイトは元ラックス(現ラックスマン)にいた三浦篤氏が、同じくラックスで設計を担当していた石黒まさみ氏と1986年に創業(A&M Limited)、真空管アンプ専業メーカーとして既に長い実績を誇り、世界的評価を確固たるものとしています。
当初から真空管アンプ一筋を目指していたので、真空管の「気密性」ということでブランド名はAIR TIGHT となりました。
Atsusi Miura, founder
日本国内の専用工場でハンドメイドにて生産されます
国内外で長らく好評を博してきた211 シングル・モノラルパワーアンプ、Air Tight ATM-211 は2001年の発売から20年以上の歳月が流れました。
この間にはエアータイトの転換点となった211 プッシュプル・モノラルパワーアンプ ATM-3211 を発表し、その技術を投入して新たに開発されたのがATM-2211J です。
出力管211 のプレートから初段にかけるフィードバックの採用
ATM-2211J では、出力トランスの2次側からのオーバーオールのNFB (負帰還)は排して出力管211 のプレートから初段にフィードバックをかけています。
これは所謂、特性改善という意味合い以上に音の浸透力やエネルギー感を重視した為です。
出力22W のATM-211 よりも回路各部の動作点を厳格に設計し、211 のシングル動作で32W と大幅に出力アップを果たしました。
出力管211 は固定バイアス方式 、フィラメントはDC点火を採用しています。
高圧用と低圧用、2つの電源トランスを搭載
従来は1個であった電源トランスを今回、高圧用電源トランスと低圧用の電源トランスの2つとし、各段の干渉を抑えて余裕をもって電源を供給しています。
またシングルアンプの肝といえるチョークコイルには伝統的なボビンを用いない層間巻き、更に高電圧に耐えうるものを特別に作りました。
このチョークコイルは職人が一個一個手作りしています。
出力トランスには橋本電気製の大出力タイプを採用し、低域のレスポンスを改善。
2つの電源トランス、チョークコイル、出力トランスはすべて日本製です。
また、電源投入時の出力管の保護、及び電源部の平滑コンデンサーの長寿化のため、タイマーリレーにより電源投入時に時差を設けてプレート電圧を印加しています。
出力管211 の電流値を監視するIp モニター(バイアスメーター)は縦振りの大型エッジワイズタイプを採用して見易さと合わせ易さを追求。
従来の211/VT-4C のプレート損失100W タイプの211 とは別に存在するプレート損失75W タイプのヴィンテージ管211 の両方に対応した文字盤としたことで、簡単に出力管の挿し替えが出来るようになっています。
エアータイト伝統のモノコック構成メインシャーシ
モノコック・メインシャーシから肉厚の純銅サブシャーシを釣り構造で取り付け、メインの増幅基盤と大型ブロックコンデンサーの載る電源部を支えています。
メインシャーシにはビスの頭が見えないスタッドボスを用いた構造を採りました。それは美観的な観点からだけでなく、ボス自体がシャーシに圧入されることによる電気的な導通の確実となるメリットがあります。
肉厚のフロントパネルは15mm 以上のアルミ材からNC旋盤で削り出しています。
スピーカー・ターミナルは独WBT 社製のものをハイ(8Ω)とロー(4Ω)を独立して装備しています(スピーカー負荷は注文時にオプションで16Ω を選ぶことが出来ます)。
入力端子はRCA 端子とXLR 端子の2種類を装備、日本語表記のバックパネルで使い勝手を向上を図っています。
【テクニカルノート】*技術的内容に興味のある方、ご覧下さい
直熱三極送信管UV-211 は本来オーディオ用途の真空管ではなく、小型送信管に分類される真空管ですが、オーディオ用の出力管として使用した場合、シングル動作で20W を超える出力を得ることが出来ます。
また素直なプレート特性、透明感溢れる音質、何よりも煌煌と煌めくタングステンフィラメントの堂々たる姿も合わせてとても魅力がある真空管と言えます。
また、オーディオ用の出力管とは違いプレート電圧が高く、内部抵抗(rp)は約3.8kΩ。オーディオ用として設計された300B の750Ωと比べてとても大きい数値となります。
そのため、アウトプットトランス(以下OPT)は1次側の負荷が7kΩ〜10kΩといった特殊なインピーダンスタイプのものが必要になります。
OPT の1次側のインピーダンスが高いということはそれだけ1次側に銅線を多く巻かなければならないことを意味し、これはハイファイオーディオ用OPT を設計する観点ではとても大きな障害と言えます。トランスの巻き線による挿入損失や周波数特性の広帯域化といった個々の様々な要素を鑑みての設計が必要で、その上OPT の2次側の巻き線がシリーズタップとなると、各出力負荷巻き線で同じような周波数特性を保証することは困難を極めます。
このような特殊なシングル用OPT が用意出来たとしても、211 は真空管の内部抵抗が高い為、駆動すべきスピーカー側の出力インピーダンスが大きくなります。言い換えるとダンピングファクター(以下DF)が小さくなるということです。
例えばNON-NFB のシングルアンプを構成した場合は、オーディオの用の300B や2A3 等と比較した場合、1/2以下、下手をすればDF1 以下という、オーディオアンプとしては異例の低DF 特性となります。
オーディオアンプのDF に関してあるべき姿は諸説あり、一概に低いDF が良くないとは言えないものですが、余りにも低いDF では、近代的なスピーカーや電子楽器を多用した音楽を再生する場合にはDF 不足となることは否めません。
この問題の解決策として、一般的にはOPT の2次側から初段に戻してオーバーオールのNFB を掛けます。
しかし、単純にDF のみの改善は出来ても211 の音質上の特徴を損なう可能性が高くなってしまいます。
意図的にオーバーオールのNFB を減らしていき、211 の音質的な特徴を阻害しない範囲のごく少量のNFB(例えば、帰還量を6dB 以下)を掛けるという選択肢も検討しましたが、納得出来る音質には程遠いものでした。
こうした結果の上で本機では、当社のATM-300 Anniversary やATM-300R に採用していた、出力管に局部NFB を掛け、出力管のプレートから初段に返すNFB という方法を採り、実験を重ねることで好結果を得ることが出来ました。
しかし211 の場合、出力管のプレートから初段に返すNFB には大きな問題点があります。
それは、ピーク値1000V を超える信号成分が1000V 近いDC に重畳されるプレートから、フィードバック信号を取り出さなければならないということです。つまり、フィードバックループを構成する所謂β回路には、音質面への考慮は勿論、安全性・信頼性を考慮した構成が必要だったのです。この為、NFB に関するパーツの選定には検討に検討を重ね、回路にはコストを度外視した高信頼パーツを惜しみなく採用しております。
結果として、従来機のATM-211 と比し、組み合わせるスピーカーの選定範囲が広く、様々なジャンルの音楽において、211 の音質的な特徴を再現するアンプに仕上がりました。
ATM-2211J は、高性能を目指したアンプで決してありませんが、ATM-211 と比較して、10dB を超える多量の局部NFB の効果から音場は左右に広く奥行きが増し、その空間再現能力もかなり向上したと言えます。
その上、回路各部の動作点の設計を厳格化したことにより、22W から32W に出力
をアップすることが出来ました。
使用真空管: 12AX7×1, 12BH7×1, 211×1
入力: RCA×1, XLR×1
出力: 32W×2
入力感度: 500mV
周波数特性: 20〜20kHz(-1dB, 3.5W)
全高調波歪率(THD): 1%以下
ダンピングファクター: 7(1kHz, 1W, 8Ω)
入力インピーダンス: 100kΩ(RCA, XLR とも)
消費電力: 250VA
外形寸法/ 重量: W400×D355×H255mm/ 約25.5kg