UESUGI 上杉研究所 は、アンプ設計者でオーディオ評論家でもあった上杉佳郎氏が兄・上杉卓男氏とともに1971年に創業(型番のU-BROS は上杉兄弟の意)、一貫して真空管アンプを製造してきました。
2010年に惜しくも上杉佳郎氏が亡くなった後を受け継いで、現在の代表、藤原伸夫氏が2011年から運営しています。
両氏は長年親交があり、上杉氏自身が厚い信頼を寄せていた藤原氏に後を託して現在に至っています。
藤原氏は長年日本ビクターで電気回路設計を担ってきたヴェテラン中のヴェテランで、ビクターの伝説的名機、ラボラトリーシリーズのME1000 やPL-10,XL-Z1000A をはじめとして多くの製品設計に携わってきました。
こうした藤原氏の百戦錬磨の経歴は上杉時代とはまた違った新風をもたらして、ウエスギ・アンプの伝統を周到に守ったうえで、さらに視野を広げて新しい技術も導入、新時代のウエスギをしっかりと印象付けています。
上杉研究所はプッシュプル回路の一種であるサークロトロン(Circlotron)出力回路を採用したパワーアンプの製品化を積極的に進めていますが、このたび直熱三極管の雄である300B を同回路の出力管として用いたプッシュプルパワーアンプU-BROS-330AH が創業50周年記念の最終モデルとして発売されました。
AB2 級動作のサークロトロン出力回路、ならびに交流点火技術等、新世代ウエスギ真空管アンプの技術を総動員して開発されたフラグシップ・モデルとなります。
このU-BROS-330AH PS は中国PASVANE 製 300B 真空管が付属するセットです。PSVANE(プスヴァン)は世界的に評価の高い高品位真空管です。
新型専用出力トランスの搭載
サークロトロン回路の採用により可能となった低レベル再生能力に優れた定インダクタンス構造の高効率出力トランスを上杉研究所とアテネ電機(群馬)の共同で開発、従来のプッシュプルハイパワーアンプでは困難であった優れた低レベル再生能力とスピーカー駆動能力の高いハイパワー再生の両立が実現しています。
本機の出力トランスは大出力アンプU-BROS-120R と同一品を採用していますので出力トランス付きの真空管パワーアンプとしては破格の30W/7Hz の超低域パワーバンドワイズ特性を実現しています。
出力トランスには独立した負帰還用3次巻線を装備し、負荷の影響を受けることなく安定した負帰還動作が行われます。
出力巻線はアースから浮いたフローティング動作をしており、出力端子をシリーズ接続する事で安定に出力増強を行うことが可能です。
300B 真空管フィラメントの交流点火
300B を交流点火とし電気性能、音質の改善を行っています。
これに関しては既発売のシングル出力パワーアンプU-BROS-300AH の開発で得られた交流点火の知見が元となっていますが、フィラメントハムに関しては本機はプッシュプル動作を行いますので電源周波数の2倍の周波数は同位相で発生し出力トランスへ入力されます。そのためU-BROS-300AH のようなDSP による適応型のキャンセル信号生成は不要となっています。
出力管は固定バイアスですが、出力管バイアス調整機能が装備されていますのでユーザーサイドで真空管の差し替え使用が可能です。
300B 真空管はアイドリング電流を抑えた固定バイアスのAB2級動作を行い、出力の増大、ならびに発熱量の低減により貴重な真空管寿命の延伸を図っています。
ウエスギアンプ設計理念の継承
店主おススメ!
[サークルトロン回路関連の技術説明]
1950年代初頭に米国,フィンランド,日本において真空管のプレートとカソード両方から出力を取り出す基本構成を持つ通称 CSPP(Cross Shunt Push Pull)回路が開発されました。
その後、数々の CSPP 回路が登場しましたが有名なマッキントッシュタイプの CSPP は米国では(Unity Coupled Circuit)と呼ばれています。
そのひとつであるサークロトロン Circlotron はその構成・動作のシンプルさから「最も美しいプッシュプル回路」と評されています。
1次巻線はシングル巻線で直流電流の流れないシングル出力段の出力トランスと同じ動作を行いトランスによるプッシュプル波形の合成を必要としないことが注目されます。
なお、Circlotron の名称はアンプ出力ステージの略図に由来します。
前記の動作原理を示すブリッジ回路は下図のように円形に描く事が可能です。
●出力トランスについて
サークロトロン出力回路は従来のプッシュプル回路と異なり、出力トランス内で磁気結合による波形合成を必要とせず、1次2次巻線は各々1個の巻線によるインピーダンスマッチング機能に徹すればよいことになります。
従って従来のプッシュプル回路に比べ1次インピーダンスは 1/4 でよく、巻線構造がシンプルで高性能化が容易に実現可能となりました。
AB級ないしB級プッシュプル用出力トランスではプッシュプルを構成する各々の出力回路に休止期間があるため1次巻線の有効利用率が100%を下回りますが、サークロトロン回路では1次巻線は巻線の有効利用率が100%のシングル巻線でよく、高効率化が実現されコアの通過電力の割に小型化が可能となります。
センタータップ整流とブリッジ整流の違いを想起してください。
本機のサークロトロン出力トランスは巻線に直流の高電圧が発生しないため、音質劣化の要因であるワニス含浸、樹脂充填構造に対し音質観点で改善を行いました。
●出力回路供給電源について
サークロトロン出力回路では動作原理上プラスサイクル用出力回路とマイナスサイクル用出力回路用に独立したアースから浮いたいわゆるフローティング電源が必要となります。
本機ではフローティング電源に侵入する同相ノイズを阻止する構造の電源トランスを上杉研究所とアテネ電機(群馬)の共同で開発し採用しました。
プラスサイクル用出力回路とマイナスサイクル用出力回路用に独立した電源を用意することは相互干渉低減のメリットがあり、現代のハイエンド真空管アンプにあっては音質面で大きなメリットをもたらす結果となりました。
●ドライバー段について
サークロトロン回路の出力トランスの1次巻線はプラスサイクル用出力回路とマイナスサイクル用出力回路により対称的に駆動されるために、仮想的に1次巻線のセンターが信号アースポイントとなり、出力回路に対してプレート-カソード間信号の50%の電圧負帰還が行われます。この帰還の構造はマッキントッシュの CSPP(Cross Shunt Push Pull)回路と同じです。従って出力回路は本来の駆動信号に加え帰還電圧が加算された大振幅のドライブ電圧が要求される事となります。
本機は、電圧増幅段電源ならびに出力段ドライバー電源ならびに信号のブートストラップを行い低歪で安定に約500V(P-P)に達するドライブ電圧の出力を確保しています。
電圧増幅回路には高耐圧の増幅用真空管 6CG7 の直線性の良い領域を使用してい
ます。
三極出力管をAB2級動作するためカソードフォロア直結で駆動することは出力の増大のみならず音質面でも大きなメリットがありますが、本機ではカソードフォロア管として高gm の12AT7 を並列接続し一層の低出力インピーダンス化を果たしました。
それぞれの出力管に独立した真空管を配置していますが、これは該真空管のヒー
ターカソード間耐電圧確保の観点からも有効な設計です。
●その他
300B 真空管の交流点火
直熱管である300B 真空管はフィラメント波形の影響が残留ノイズや音質にあらわれます。
本機ではコイルとコンデンサーで構成された2次のLPF を経由して点火することでフィラメント波形に含まれる電源高調波成分を数分の一に減衰しています。これはU-BROS-300AH 開発過程で明確になった直熱管交流点火の前提となる回路です。
フィラメントハムに関しては本機はプッシュプル動作を行いますので電源周波数の2倍の周波数は同位相で発生し出力トランスへ入力されます。そのためU-BROS-300AH のようなDSP による適応型のキャンセル信号生成は不要です。但しフィラメントのエミッションバランスの悪い一部の300B 真空管では電源周波数ハム(1次)のキャンセル調整が必要となりますのでこのための調整回路を装備しています。
保護機能
1)出力管プレート電流異常検出(検出速度 1ms)により+B 電源、フィラメント電源ならびに出力の遮断
2)出力管フィラメント・インラッシュ電流抑制回路
3)起動時各真空管部の電源印加のタイミング制御
調整機能
1)入力信号レベル(アンプゲイン)コントロール機能
2)フロント面に表示されているアナログメーター指針をガイドに出力管プレート電流ならびに出力管プレートアンバランス電流調整、ベースハムレベル調整機能
回路形式: AB2 級サークロトロン回路
入力: RCA PIN×2(並列接続)、RCA PIN×1(ダイレクト)
入力感度: 1.0V
定格出力: 30W(THD 5%)
周波数特性: 10〜100kHz(+0, -3dB)
ダンピングファクター: 8(8Ω負荷時)
入力インピーダンス: 80kΩ(ノーマル,ダイレクト入力とも)
出力インピーダンス: 4, 8, 16Ω
消費電力: 90W, 73W(無信号時)
外形寸法/ 重量: W364×D218×H201mm/ 17.5kg