待望のトーレンス復活、久々に日本再上陸を果たします。
実は140年にも及ぶ長い歴史の間には様々な変遷があり、いわば現在のトーレンスは第3世代とも言うべき新生トーレンスなのです。
日本への輸入が途絶える前、トーレンスの第2世代にあたる前オーナーの時代には、それまでの伝統に縛られない新しいスタイルを導入、ラインナップもプレーヤー以外にまで拡充するなどのテコ入れを図り、現地ヨーロッパではそれなりの売り上げを挙げていたと聞いていました。
しかし日本ではそれらが裏目に出て、もはやかつてのトーレンスの面影は無いとの評価もあり、輸入自体が打ち切りとなりました。
比較的安価で簡易な製品が中心でしたので、私どもでも当初はそれなりに売れていたのですが、数回にわたる値上げで売りにくくなったのは確かです。
それ以降もメーカーとしては事業継続しているのを知ってはいましたが、今のような状況では国内再導入は当分無いだろう、と考えていました。
今回再上陸のきっかけとなったのは、2018年から強力なリーダーシップで牽引する新オーナー、自身も技術屋であるグンター・キュルテン氏が、自ら敬愛するトーレンス・ブランドの立て直しを敢行、それがほぼ軌道に乗って、日本に導入することの出来るラインナップが揃ったことでした。
こんなトーレンスを待っていた!
Gunter Kurten, owner,CEO
まず、日本国内でも中核モデルのひとつとなる TD1500 が発売されます。
かつての栄光を取り戻すかのような、ひと目見て分かる姿を、まずはご覧下さい。
トーレンスは、やはりこれでなくては!
TD1500
じつはキュルテン氏にとってTD1500 は特別な意味をもつモデルでした。
かつてトーレンスにTD150 というプレーヤーがありましたが、これはそれまでの製品と違い、世界でも初めてスプリング・サスペンションによりフローティングされるサブシャーシをもつ、そしてそれ以降のトーレンスを方向付ける画期的なプレーヤーだったのです。
この機構はたちまち広く世界中のメーカーで採用されるに至ります。その中にはご存知、LINN もありました。
本家トーレンスでもこのサスペンディッド・サブシャーシはほとんどのモデルに基本機能として受け継がれました(第2世代の時期にはこれは完全に放棄されました)。
キュルテン氏は本格プレーヤーの開発にあたり、このエポックメイキングなTD150 を現代に蘇らせることから始めたのです。
但し蘇らせると言っても、大昔のTD150 をそのまま復元するわけではありません。それでは単なるリヴァース・エンジニアリング、自身で新規開発出来ない者が行う愚行です。
彼は、トーレンスとしてのアイデンティティー、即ち守らなければならない伝統,遺伝子や引き継ぐべき技術を尊重したうえで、現代だからこそ可能な最新技術,加工・製造工程を駆使してベストなものを新しく生み出すことを目標としていました。所謂、「新しい酒を古い革袋に盛る」ようなものでしょう。
詰まるところ、グンターさんは自身でも愛用する全盛期の魅力あふれるトーレンス・プレーヤーが大好きだったわけです。自国の(この頃のプレーヤーはドイツで生産されていました)有名なプレーヤーですから、子供のころから散々見ていたことでしょう。
旧THORENS TD150 AB
前置きが長くなりましたが、こうした経緯で新規開発されたTD1500 を詳しく見ていきましょう。
フローティング・サブシャーシ構造
下の写真をご覧下さい。底板を外して下から見たところですが、中央にあるグレーのパネルがサブシャーシ、これを3ヶ所見える円錐型のスプリングでトップパネルから吊っています。もちろんトーンアームを取り付けるアームボード(右側の黒く細長いボード)はサブシャーシと一体化されています。
サブシャーシは剛性の高いアルコボンド製パネル(アルミとPOM の複合材料)で重過ぎずレゾナンス・フリー、経年の変形にも強い素材です。
サブシャーシはアーム側が重くなりますので、そのままでは傾いて3本のサスペンションへの荷重に偏りが生じます。これを防ぐために、写真でサブシャーシの左端、銀色の円筒が見えますが、このバランスウェイトによってサブシャーシの荷重バランスを取っています。
納品時にはスプリング・サスペンションの高さ調整は済ませてあるので、改めて調整する必要はありませんが、ヘッドシェルを含めたカートリッジの重量が大幅に変わったり、ターンテーブル・マットを替えたり、レコード・スタビライザーを常用したりする場合など、サスペンションの再調整が必要となった場合は、以前のモデルに比べて作業が簡単になりました。
プラッター・マットを外すとプラッターに丸穴が2ヶ所開いていますので、その穴をサスペンション調整部分(3ヶ所)に合わせると、上から穴に付属の六角レンチ(時々調整が必要な場合は、小型六角ドライバーを用意すると便利)を挿し込み、調整ネジを回して合わせることが出来ます。
マットを載せて水平を見て、微調整…を3ヶ所で何度か繰り返せばOKです。
サブシャーシの高さ調整方法
新開発のTP150 トーンアーム
今回のトーレンス・プレーヤーにはどれもトーンアームが、しかも日本で人気の高いユニヴァーサル・タイプのアームが搭載されているのが大きな魅力です。
TD1500,TD1600,TD124DD、いずれもちょっと見には同じように見えるアームが着いていますが、実はすべて別物。各モデルに対して専用設計のアームが着いているのです。
これが実は大変なことで、トーンアームの開発には大きな手間と時間,コストがかかります。それにもちろんそれぞれを作り分ける技術も。
TD1500 にはTP150 トーンアームが搭載されており、このアームはコンヴェンショナルな水平(ラジアル)・垂直(ピンポイント)ベアリングが用いられています。
インサイドフォース・キャンセラーは独自のスライドウェイト・タイプが採用されています。カバー内に仕込まれたウェイトから、ルビー・ガイドを通ってナイロンテグスがアームに繋がっています。ウェイトをスライドさせてキャンセリング調整を行います。
メイン・バランスウェイトは大小二つの部分から成っていて、2本のビスを外すことで分割が可能です。特に軽量なヘッドシェル+カートリッジの場合はひとつのウェイトだけ使うことも出来ます。
ヘッドシェルは別売りの単品もご用意しています。
またアームの高さは、支柱部分下側にあるリングの小穴に付属のスティックツールを挿し込んで回すことで無段階に調整が可能です。木目細かい調整が簡単に出来て、これは便利。
それに合わせて、アームレストやアームリフターも高さ調整が可能です。
小型DCモーターと制御用ロータリーエンコーダー
サイレントな小型DCモーターを採用し、インクリメンタル・エンコーダーによって回転制御を行っています(上の底板を外した写真で、サブシャーシのスピンドルベアリング下部、緑色リング状部分)。
バランス出力も装備
特にMCカートリッジ使用時にその性能を活かすバランス型出力を装備(XLR 端子)。
Ortofon 2M Bronze MMカートリッジ付属
オルトフォン MMカートリッジの高級機、2M Bronze(価格54,000円)が付属するのは何とも太っ腹!
ortofon 2M Bronze 付属
ダストカバー付属
以下、ステレオ・サウンド・オンラインの動画も是非ご覧下さい:
オーナー、グンター・キュルテン氏自身による新生トーレンス紹介
黛健司氏によるグンター・キュルテン氏インタビュー
フローティング・サブシャーシー構造の解説(TD1500 は後半に出てきます)by グンター・キュルテン
インサイドフォース・キャンセラーの調整方法
駆動方式: ベルトドライブ
回転数: 33 1/3,45RPM (スイッチ切替え式)
モーター形式: DCモーター
プラッター: 22mm厚, 1.4kg アルミダイキャスト製
トーンアーム: TP150 トーンアーム
出力: RCA, XLR バランス
外形寸法/ 重量: W420×D360×H150mm/ 7.9kg
付属品: ortofon 2M Bronze MM カートリッジ