[CD-R盤]
メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 OP.64
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 OP.77 *
ジョコンダ・デ・ヴィート(Vn)
ルドルフ・ケンペ指揮 バンベルク交響楽団
*オイゲン・ヨッフム指揮 バイエルン放送交響楽団
名ヴァイオリニスト、ジョコンダ・デ・ヴィートによるロンドンとミュンヘンにおけるライブ。
メンデルスゾーンは英国人コレクター、ブラームスはドイツ在住ロシア人コレクターからの提供音源。
メンデルスゾーンは、詳しくは後述するがテレビ放送の音声のみをエアチェックしたもの。ブラームスは放送局保管テープのコピーと思われる。
メンデルスゾーンのオリジナル音源の状態は、ヒスノイズ過多、低いピッチ、ナローレンジで低域がブーミーな反面ヴァイオリンの高音がきつく聴こえるなど、録音年代を考慮すると残念ながら貧弱な録音。恐らく放送当時のテレビには音声出力端子が付いていなかったため、イヤホンジャックからレコーダーに録音したと思われ、FM音声規格ながらラジオのエアチェックよりも条件が悪かったのだろう。
因みに30年ほど前に日本国内で同一録音と思われるプライベートLPが少量発売されていたが、音質は同様だったと思われる。
ディスク化に当たっては、ノイズの低減,周波数レンジの拡大,低域過多・ヴァイオリン高域の飛び出しなど周波数バランスの調整,ピッチの正常化等々、オリジナルを尊重しつつ手を尽くした結果、1950年代半ば頃の平均的なモノラルLP程度までの音質改善を果たすことが出来た。
特に優秀な音質とは言えないものの、当時のLPを聴き慣れたリスナーであれば、ストレス無く演奏を鑑賞出来ると思われる。
一方、ブラームスは1956年という年代の水準を上回る高音質。
バイエルン放送の録音技術の高さに感心する。周波数帯域がそれほど広いわけではないが、バランスも良く、適度に残響を入れた臨場感あふれるもの。但し、ダイナミック・レンジが広大で独奏ヴァイオリンに比べてオーケストラの音量が大き過ぎ、家庭で鑑賞する音量では、独奏ヴァイオリンが聴き取りにくいという問題があった。実際の演奏会場の音量差に近いとも言えるが(それだけ原音に忠実な録音であるとも言える)、鑑賞に支障があることは問題。
当演奏は、かつて仏ターラから複数のヴァイオリニストの演奏をまとめた2枚組CDの1曲として発売され、ほかにもマイナー・レーベルの非正規盤も存在するが、正規音源によるCD化が行われていないのは、上記のようなオーケストラと独奏ヴァイオリンのバランスに問題があるためかも知れない。
ディスク化に当たっては、コンプレッサーによってオーケストラとヴァイオリンの音量差を改善、さらにヴァイオリンの重要周波数帯域を若干クローズアップさせるなどの処理を行った結果、初めてデ・ヴィートの演奏が容易に聴き取れるようになった。2曲とも会場ノイズはほぼ皆無。拍手付き。
ジョコンダ・デ・ヴィートは、1962年4月、54歳という円熟期に引退したが、その理由として、テレビの録画放送で自らが演奏する姿を初めて見てショックを受けたからといわれ、恐らくその放送が当ディスクのメンデルスゾーンの演奏と思われる。放送は1962年1月2日22時25分からBBC「International Concert Hall」という番組名で、上記のように生中継ではなく、放送前にBBC のロンドン・マイダ・ヴェイル・スタジオに聴衆を入れて録画された。番組ではメンデルスゾーンのほかに、R・シュトラウスの「ティル・オイゲンシュピーゲル」も演奏されたので、1時間弱の放送時間だったと思われる。残念ながら現状では収録日は不明だが、ケンペとバンベルク交響楽団が前年10月に英国公演を行っており、その前後に収録されたようだ。マイダ・ヴェイル・スタジオは、複数のスタジオの集合施設だが、最も大きなスタジオは、オーケストラに加えて数百名の聴衆を入れるスペースがあったから、ラジオの公開放送なども盛んに行われており、当レーベルのペルルミュテールのリサイタル(オルガヌム110131AL)も「Thursday invitation concert」と銘打ったスタジオ・ライヴである。
ちなみにメンデルスゾーンの録画は、1964年春にNHK でも放送された記録があり、複数以上のコピー・テープが存在したと思われる。フィルム撮影であれば現存している可能性が高いが、ビデオの場合はテープが非常に高価だった時代でもあり、当時の習慣として放送使用後は別の番組の録画に再利用されることが多く、ビデオ・テープが現存しているかは不明である。
一方のブラームスは、デ・ヴィートの最も得意とするレパートリー。デビュー前10年以上も研究を重ねたといわれ、2回のスタジオ録音のほかライヴ録音も数種残しているが、当ディスクの演奏は、ヨッフム指揮バイエルン放送響という強力な指揮者・オーケストラが共演しており、注目すべき録音と言える。
優秀な録音ながら上記のような音量バランスの問題があったが、今回の改善により、ようやく演奏の真価が理解されると思われ、録音状態を含め、総合的にはデ・ヴィートによる同曲の最良の演奏となるのではないだろうか。
デ・ヴィートは、1951年に英EMI の役員・プロデューサーであるデイヴィッド・ピックネルと結婚。デビュー当初の独ポリドールを除き英EMI(レーベルはHMV)にレコーディングを行ったが、協奏曲録音では共演者にあまり恵まれていない。国際的に評価が高い指揮者はビーチャム(モーツァルト)とクーベリック(バッハとモーツァルト)くらいで、メンデルスゾーンやブラームスの協奏曲ではサージェントとシュワルツが共演し、良くも悪くも“伴奏”に徹した演奏に終始している。夫がEMIの役員・プロデューサーであるから共演指揮者を自由に選ぶ権限を持っていたはずだが、敢えて自己主張が少なく、独奏者の希望を全面的に受け入れる(従ってトラブルも少ない)穏便な指揮者を選んだのかも知れない。結果としてデ・ヴィートの一人舞台というか、ヴァイオリン独奏のみ高く評価され、伴奏指揮は評価保留(実質は低評価)という録音が残された。
その点で当ディスクのケンペとヨッフムは、デ・ヴィートを着実にサポートしつつ、自らの解釈も明確に主張しており、EMI 録音よりもはるかに優れた伴奏と言える。やはり、独奏と伴奏がともに充実していて初めて協奏曲の名演奏が成り立つことを再認識する。
ジョコンダ・デ・ヴィートは、当ディスク以外にメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を1951年英HMV にスタジオ録音したほか、1952年と1957年にライヴ録音していた。
また、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を1941年独ポリドール、1953年英HMV にスタジオ録音したほか、1951年,1952年,1956年,1960年,1961年にライヴ録音していた。
※総合カタログは下記を参照下さい:
https://www.ne.jp/asahi/classical/disc/index2.html
*【ご注意】
当商品はCD-R盤です。CD-Rは通常の音楽CDとは記録方法が異なり、直射日光が当たる場所、高温・多湿の場所で保管すると再生出来なくなる恐れがあります。
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レーベル: ORGANUM
品番: 110137AL
Stereo/Mono: Mono
録音: '61.10月頃、BBCマイダ・ヴェイル・スタジオ(ロンドン)、'56.11.15、ヘルクレスザール(ミュンヘン)