フィンランドDSPeaker のD/Aコンバーター、Anti-Mode 2.0 Dual Core です。
でもただのD/Aコンバーターではありません。同社はAudio Processor と呼んでいますが、小型で安価ながら、マルチ・タレントで実に賢いマシンです。
どこが賢いのかというと、まずD/Aコンバーターであるのに加えて、音量調整機能を有しアナログ入力(2系統)をもつためプリアンプとして使えること、とまあ、ここまでは他にも同様の機能を持つ製品が存在します。
ではこのAnti-Mode 2.0 Dual Core だけの優れた機能とはというと、自動音場補正。
D/Aコンバーターであるためデジタル領域で音質劣化なしに精巧な周波数補正を行います。
これにはもうひとつミソがあって、敢えて最も大きくルームアコースティックの影響を受ける低域(主に100数十Hz)のみを補正することで、本来全体のオーディオ・システムが持つ音色を損なうことなく音質改善するというものです。
必要最小限の補正を低域のみに対して行い、音楽を聴く上での部屋の悪影響だけをキャンセルするのが本製品の特長です。
同じスピーカー・システムを用いても、部屋が変わればその状況に影響を受けて10dB またはそれ以上の誤差が生じ、音が変わってしまいます。
それらは主に中低域から低域の特性が大きく影響しています。
Anti-Mode 2.0 Dual Core は、付属のマイクロフォンを用いて部屋の特性を測定し、高性能音場補正技術"Anti-Mode"により中低域以下の特性を自動的に補正することが出来ます。
また、補正後の特性を豊富な機能やEQによって微調整することも出来ます。
付属の測定用マイクロフォン
入出力は、アナログ(バランス/アンバランス)とデジタル(SPDIF/ USB)が用意されており、単にD/Aコンバーターとして使用する以外にも、デジタル機器の間に接続したり(D/Dプロセッサー)、アナログとデジタル機器の間に接続するなど(A/Dコンバーター)、あらゆるシステム環境に導入することが出来るため、アイデア次第でユーザーの用途に即した使い方が可能です。
〜特長〜
- 新開発Anti-Mode2.0 自動音場補正アルゴリズムを搭載
- ジッターフリーの高性能DACとして使うことが出来る
- デジタルはUSB 入力およびSPDIF オプティカル入出力装備
- 高精度のデュアルバランスADコンバーター搭載
- 6.144MHz オーバーサンプリング、ジッターフリーのデュアルバランスDAコンバーター搭載
- ボリュームコントロールを持ちプリアンプとして使用可能
- 豊富なEQ機能: ハウスカーブEQ,リニアフェイズチルトEQ,パラメトリックEQなど
- 補正結果とEQ設定を保存し、切り替え選択が可能
〜主な仕様〜
- プロセッシング: 40bit
- DSPフィルター: Anti-Mode 2.0(FIR, IIR)
- ハウスカーブ・フィルター: リニアフェーズチルト, パラメトリックEQ, 超低域カットフィルター, ローカット/ハイカットフィルター
- ADコンバーター: 6.144MHz オーバーサンプリング(ch毎)
- DAコンバーター: 6.144MHz オーバーサンプリング(ch毎), リクロック&バッファリング
〜音場周波数補正の例〜
Anti-Mode 2.0 Dual Core には、より良い補正結果を得るためのツールがいくつか用意されています。
一例として、それらを使用し調整してみます。
まず標準のTypical モードにて、音響特性の良くない部屋でキャリブレーションを行いました。
スピーカーも低域の出ないものを使用しています。
その結果は以下のようになりました。
Typical Mode での補正結果(赤:補正前, 黒:補正後)
補正後の音は、70〜110Hz付近の特性が整ったことで、低域のモワつきが無くなり、しっかりしたセンターならびに左右の定位が得られるようになります。
50Hz 以下はある程度持ち上がっていますが、これは研究結果から、音質を損なうことの無い適度な補正が行われた結果です。いきなり無理やり特性をフラットにしてしまうことはしません。
65Hz 付近の大きな落ち込みも同様で、大きな補正を行って無理やりフラットにはしていません。
次に、リミット周波数(グラフ中の右端のほうにある縦のライン)の150Hz に向かって70Hz から右肩下がり気味になっていますので、この部分をできるだけフラットにしたいと思います。
そこで、より補正の設定が自由に行えるAdvanced モードでキャリブレーションを行ってみます。
Advanced モードでは、リミット周波数を80〜500Hz の間で自由に設定することが出来ます。
リミット周波数をTypical モード時の150Hz よりも少し上げ、180Hz に設定してキャリブレーションを行った結果が下のグラフです。
100〜150Hz の特性が少し改善されました。
Advanced モードでリミット周波数を180Hz にした補正結果
このように、リミット周波数を工夫することで、より良い補正を行うことが出来ます。
さらに、より良い音にするためのもう1ステップを行ってみます。
補正結果では、リミット周波数の180Hz の前後で約6dB の段差があります。
ここも出来るだけフラットに補正したいと思います。
ここで注意することは、グラフに捕らわれ過ぎないことです。必ず試聴しながら、適正な調整を行います。
Anti-Mode 2.0 Dual Core には、リミット周波数以下の補正後の帯域特性をリフトアップする機能があります。
その機能を使用して、分かり易くちょっと多めに5dB 上げた結果が下のグラフです。
赤線が5dB 上げる前、黒線が5dB 上げた後です。
このように全体がかなりフラットに整いました。音は低域がかなりパワフルに、しかし暴れることなく整います。
ただ実際には3dB も上げれば十分でしょう。