Hyun Lee, TEDESKA
独TEDESKA テデスカは、設計者のヒュン・リー氏が自らが製作するベルリンのフォノカートリッジ専業工房。
ヒュン・リー氏(Hyun Lee)は韓国生まれ。12才の時、兄からギターをもらったのを機に弾き始め、1994 年には本格的にクラシックギターを学ぶため、敬愛するJ.S.バッハの故郷であるドイツに移り住みます。
ドイツでバッハの曲を弾くうちに(バッハのギター曲は元々はリュートのために書かれています)、ギターの前身であるリュートに興味をもつようになり、自然と古楽の世界に入っていきました。
これは同時にレコード・コレクションを一気に増やすことにもなりました。なぜなら、当時のベルリンにはまだ中古レコード店が沢山あり、レコードを買うことが古楽を聴くための最も手頃な手段だったからです。
古書店の床に無造作に置かれた箱の中に、こんなレコードを見つけたのもこの頃です;
"Das Schaffen Johann Sebastian Bachs serie H/ Walter Gerwig (Archiv)" (J.S.バッハの作品 シリーズH/ワルター・ゲルヴィッヒ、アルヒーフ・レーベル)
ワルター・ゲルヴィッヒ(1899-1966、ドイツの先駆的リュート奏者)の演奏に感銘を受けたリーは、彼の音色を学び、演奏を分析するために毎日何時間もレコードを聴いていました。
そのためとうとうカートリッジが壊れてしまい、もう少し高いカートリッジを買いましたが、それもほどなく壊れてしまいます。今度は修理に出しましたが、新品よりも高い修理代を払ったにもかかわらず、出来上がってきたカートリッジの音にどうしても納得がいかず、自分で分解して中を調べてみました。
好奇心旺盛な彼は、これを契機にカートリッジの中の「小宇宙」にすっかり魅了され、12の顕微鏡と数百のカートリッジを買い込んで徹底的に研究することになります。
こうして独学で技術を習得した彼は、ドイツEMT カートリッジの修理も請け負うようになっていましたが、独自の工夫によってオリジナルより優れた、自身にとって「美しい」と感じられる結果が得られたのを機に、自身のカートリッジの製作に向けて更なる技術の研さん、素材の研究が始まります。その完成を見るまでには20年以上が経っていました。
「音楽を聴くためのカートリッジ」。
トランスペアレンシー,バランスなどオーディオ的要素を最高度に高めることは確かに重要ですが、リー氏の最終目標はそこではなく、プロの演奏家である彼の耳と感性が納得出来る、そして聴衆、つまりカートリッジで聴くオーディオファイルの感性とが共鳴してこそ最高の結果か達成されると考えています。
それはちょうど彼が理想とする19世紀クラシックギターの名器、アントニオ・デ・トーレス(スペイン)やルネ・フランソワ・ラコート(仏)などにも通じるものなのです。
TEDESKA のボディはすべてグラナディアという木材で作られています。これについてはリー氏の説明をご覧下さい;
「TEDESKA のカートリッジにはすべてグラナディラという木材を使っています。
これはクラリネットやオーボエなどによく使われる素材ですが、水や汗に強く、何度も手で触れても性質が変化することがありません。レコードは何十年も保管し、再生することができます。カートリッジもまた経年で変化してしまうことがあってはならないと考えています。
また、カートリッジの正面にはすべて目玉のような丸印がついていますね。これもクラリネットで指が当たるところを「frog's eye(カエルの目)」というのですが、それをモチーフにしています。」(音源出版 phileweb のインタビュー記事から一部引用)
木部の仕上げは伝統的なフレンチポリッシュ(シェラック塗装)というアコースティックギターと同じ方法で行われます。
TEDESKA のステレオ・カートリッジには3つのシリーズ、Classic,Progressive,Air Cored Coil があり、それぞれに通常のヘッドシェルに着けられる標準タイプとオルトフォンSPU のようなヘッドシェル一体型モデル(ロングとショート2種類)とがあります。
DST201k はClassic シリーズに属する同社のスタンダードモデルで、ヘッドシェル一体型。長さがオルトフォンのSPU-G(Gシェル)と互換があるタイプです。
カンチレバーにアルミ、マグネットにはアルニコを採用しています。
オーソドックスな温故知新型といえるでしょう。