UESUGI 上杉研究所 は、アンプ設計者でオーディオ評論家でもあった上杉佳郎氏が兄・上杉卓男氏とともに1971年に創業(型番のU-BROS は上杉兄弟の意)、一貫して真空管アンプを製造してきました。
2010年に惜しくも上杉佳郎氏が亡くなった後を受け継いで、現在の代表、藤原伸夫氏が2011年から運営しています。
両氏は長年親交があり、上杉氏自身が厚い信頼を寄せていた藤原氏に後を託して現在に至っています。
藤原氏は長年日本ビクターで電気回路設計を担ってきたヴェテラン中のヴェテランで、ビクターの伝説的名機、ラボラトリーシリーズのME1000 やPL-10,XL-Z1000A をはじめとして多くの製品設計に携わってきました。
こうした藤原氏の百戦錬磨の経歴は上杉時代とはまた違った新風をもたらして、ウエスギ・アンプの伝統を周到に守ったうえで、さらに視野を広げて新しい技術も導入、新時代のウエスギをしっかりと印象付けています。
U-BROS-120R は、2014年に温故知新の「サークロトロン」回路を復活、採用したパワーアンプとして話題となったU-BROS-120 に改良を加えた後継機です。
上杉研究所は、スピーカー駆動能力の高いハイパワーとシングル出力段アンプの持つ優れた低レベル再生能力との両立を目指したアンプの開発を行うなかで、1950年代に開発された「サークロトロン」回路を現代に蘇らせることで、この目標にひとつの道筋を得ました。
サークロトロン回路はプッシュプル出力回路の理想を求めたものでしたが、電源構成が複雑となることから商品化例は極めて少数にとどまりました。
現代においてはモノラル構成のパワーアンプに2系統のフローティング電源回路を構築するのは困難なことではなく、原理的に優れたこの回路を実現する環境が整ったということが出来ます。
- サークロトロン出力回路用途に合わせ新規開発した出力トランスを採用
新規開発の出力トランスにより、低域のパワーバンドウィズが 30Hz(75W)から 20Hz(90W)に拡大、高域の位相特性も改善されました。
- ドライバー回路に高耐圧トランジスターを併用したハイブリッド回路から真空管のみで構成する回路に変更
ウエスギ標準MT 管(GE 製 12AX7A)の他、Electro-Harmonix 製 6CG7 を採用。
- 電源強化により動的レギュレーション特性を改善
合わせて電源投入時のインラッシュ電流抑制回路を追加し多様な電源機器に対応。
- 信頼性を確保しながら出力を75W から90W に増強
- 出力トランスには独立した負帰還用3次巻線を装備し、負荷の影響を受けることなく安定した負帰還動作が行われます。
出力巻線はアースから浮いたフローティング動作をしており、本機の出力端子をシリーズ接続することで安定に出力増強を行うことが出来ます。
- 出力管は固定バイアス動作をしていますが、出力管バイアス調整機能が装備されており、ユーザーサイドで真空管の差し替え使用が可能。
[サークロトロン回路関連技術についてさらに詳しく]
1950年代初頭に米国,フィンランド,日本において真空管のプレートとカソード両方から出力を取り出す基本構成を持つ通称 CSPP(Cross Shunt Push Pull)回路が開発されました。
その後、数々の CSPP 回路が登場しましたが有名なマッキントッシュタイプの CSPP は米国では(Unity Coupled Circuit)と呼ばれています。
そのひとつであるサークロトロン Circlotron はその構成・動作のシンプルさから「最も美しいプッシュプル回路」と評されています。
下図に動作原理を示しますが、V1,V2 の出力管を流れる直流電流(アイドリング電流)は相殺され、コイルには交流(信号)成分のみが流れます。
1次巻線は1巻線で直流電流の流れないシングル出力段の出力トランスと同じ動作を行い、トランスによるプッシュプル波形の合成を必要としません。
コイルの外でプッシュプル電流が合成されていることにご注目下さい。
なお、Circlotron の名称はアンプ出力ステージの略図に由来します。
前記の動作原理を示すブリッジ回路は下図のように円形に描く事が可能です。
- 出力トランスについて
サークロトロン出力回路は従来のプッシュプル回路と異なり、出力トランス内で磁気結合による波形合成を必要とせず、1次,2次巻線は各々1個の巻線によるインピーダンスマッチング機能に徹すればよいことになります。
従って従来のプッシュプル回路に比べ1次インピーダンスは 1/4 でよく、巻線構造がシンプルとなり、高性能化が容易に実現可能となりました。
AB 級やB 級プッシュプル用出力トランスではプッシュプルを構成する各々の出力回路に休止期間があるためプッシュプル巻線の有効利用率が100% を下回りますが、サークロトロン回路では1次巻線は巻線の有効利用率が100% の1巻線でよく、高効率化が実現され通過電力の割に小型化が可能となります。
- 出力回路供給電源について
サークロトロン出力回路では動作原理上プラスサイクル用出力回路とマイナスサイクル用出力回路用にアースから浮いた独立した、いわゆるフローティング電源が必要となります(ステレオアンプでは計4組のフローティング電源が必要となり、これが本方式の普及を妨げる主要因でした)。
U-BROS-120R ではフローティング電源に侵入する同相ノイズを阻止する構造の電源トランスを新たに開発し採用しています。
- ドライバー段について
出力トランスの1次巻線はプラスサイクル用出力回路とマイナスサイクル用出力回路により対称的に駆動されるために、仮想的に1次巻線のセンターが信号アースポイントとなり、出力回路に対してプレート-カソード間信号の50% の電圧負帰還が行われます。従って出力回路は本来の駆動信号に加え帰還電圧が加算された大振幅のドライブ電圧が要求される事となりますが、ドライバー供給電源ならびに出力段バイアス電源のブートストラップを行い、低歪で安定に約500V(P-P)に達するドライブ電圧の出力を確保して対応しています。本機ではドライブ回路に高耐圧の増幅用真空管(6CG7)の直線性の良い領域を使用しています。
店主おススメ!