Touraj Moghaddam, founder
ロンドンに拠を構えるVERTERE ヴァルテレは、主宰者であるトラジ・モグハダム(Touraj Moghaddam)が自らが理想とするアナログ再生を具現化するために設立したブランドです。
因みにVERTERE とはラテン語で「変化する,回転する,向かう」などの意味があります。さて、モグハダム氏がここに込めたの意図とは?
彼はロンドンの理工系名門大学のひとつインペリアル・カレッジ・ロンドンを卒業したあと、5年間の研究期間を経て仲間とROKSAN 社を創設します。ロクサン時代に彼が設計したTMS,XERXES,RADIUS といった傑作アナログ・プレーヤーはあまりに有名です。
アナログに情熱を懸けていた彼は2011年に取締役を辞任し、アナログ・プレーヤー TMS(Touraj Moghaddam Signature)を更なるレベルに引き上げるためのブランドVERTERE LTD を興します。
VERTERE が記念すべき最初の製品として発表したのは、意外にもPulse-R と名付けられたケーブルでした。
彼の才能はここでも発揮され、2011年のミュンヘンHigh End で発表されたVERTERE ケーブルは瞬く間に世界中で評判となります。現在ヴァルテレのケーブルはリファレンスグレードのPulse-HB、ハイグレードのPulse-R、 ミドルグレードのRedline、エントリーグレードのD-Fi まで揃う充実ぶりです。
しかし、これらケーブル群の設計はあくまで“完璧なアナログ再生”への布石でした。
2014年に満を持して渾身のトップエンド、RG-1 トーンアームとRG-1 ターンテーブルを発表すると、続けてSG-1 トーンアーム,SG-1 プレーヤー,MG-1 プレーヤーなどを矢継ぎ早に発売、瞬く間に世界でも指折りのアナログプレーヤー・ブランドのひとつに数えられるようになります。
研究を続けてきた成果が遺憾なく発揮されているだけでなく、内部配線や接続ケーブルまで自社ブランドを用いてトータルで設計されており、トラジ・モグハダム・プレーヤーは、その方向性は変えずに格段に高い次元へと昇華していたのです。
モグハダム氏の設計思想は1985年から変わっていません。彼は言います:
「機械を測定する場合には、ひとつのポイントを基準にして測ればよいのですが、もしレコードプレーヤーをレコードの音溝を測定する測定機だと考えると、絶えず動いている音溝を測るという難しさに直面します。
この場合、回転の中心軸と実際に音溝に接触する針先の2点が基準となります。
従って、まず回転軸を明確にしたうえで、さらに針先が音溝によってのみ振動するような状態をつくること。これが設計の全てです。」
明解そのものではありませんか。言うは易く行うは難し、ではありますが。
これが彼の当初から変わることのない基本理念で、設計上の数々の工夫はどれもこのことを実践するための手段であることが分かります。
MG-1 PKG MK2 は、2019年にアップデートされたVERTERE の中心的モデルであるMG-1 Mk2 本体の採用はそのままに、2022年4月に日本でも発売された上級機SG-1 PKG のために開発されたトーンアームSG-PTA HB の技術を踏襲した SG-PTA アームを新たに搭載し、さらに同じくSG-1 PKG のために開発されたTEMPO モータードライブを組み合わせたパッケージモデルです。トーンアーム・ケーブルには、VERTERE 自慢のRedline が採用されています。
こちらは本体カラーがクリア仕上げ(無色透明)のMG-1 PKG Mk2 CL です。
- 3層構造のプリンツ
大変スマートに見えるMG-1 Mk2 ですが、巧妙な防振3層構造が採られています。
上下2層に見える本体ベースボードは、上側のトップボードが中間に間隙をおいてアウターとインナーとに完全に分離しており、下側のロワーボードと合わせて計3ピース構造となっています(各ボードは20mm 厚キャストアクリル製)。
まず全体を支える3点支持のアルミ合金製フットは、アウター・トップボードに固定されてこれを支えます。
このアウター・トップボードに固定されたアイソレーション・ラバーダンパーには下側のロワーボードが固定され、ロワーボードは吊り下げられる形でトップボードからアイソレートされます。
さらにロワーボードに固定されたまた別のラバーダンパーにインナー・トップボードが取り付けられています。
このインナー・トップボードには、最も大切なトーンアームとスピンドル・ベアリング&プラッターが載っていますので、3層のラバー・アイソレーション・フィルタリングシステムによってこれらは厳重に外部振動から守られていることになります。
前述のモグハダハム氏の言葉の中の、「回転軸を明確にしたうえで、さらに針先が音溝によってのみ振動するような状態をつくること」がこうした工夫によって実践されていることが分かるでしょう。
- 新型アーム SG-PTA 〜トライポイント・ベアリング
SG-PTA トーンアームは一見するとユニピボット(ワンポイント・ベアリング)のように見えますが実際には違います。
ユニピボットは上下左右に動いた時、ベアリングの接点で“滑る”ように動きます。ベアリングの接触部分は人間の目には点に見えても実際には小さな面になっています。
そのため接点では必ず“滑り”が発生するのです。これはミクロン単位のことではありますが、レコードの溝に刻まれている情報と同じ大きさであり重大です。
このチャタリング(微細な機械的振動)による情報損失をなくすためにVERTERE では独自のTPA(Tri Point Articulated Bearing / トライポイント連結ベアリング)を開発しました。SG-PTA ではさらに改良したTPA-ULS(Tri-Pivot Articulated, ultra-low stiction bearing / トライピボット・連結超低摩擦ベアリング)を採用しています。
3つのシリコン・ナイトライド(窒化ケイ素)製精密ボールを三角形状に配列した中心で高精度ステンレス製ピボット(写真のスパイク状のパーツ)を支える構造で、いわゆる点接触による3点設置となることでチャタリングなくスムーズなアームベアリングを構成しています。
- 共振周波数&実効質量調整/針圧微調整リング
アームパイプの途中に装着されたステンレス・リングは、ご推察の通り、針圧微調整の役目も果たしますが、もっと重要な、初の試みと言える働きがあります。
アームパイプ上をスライドさせてこのリングの位置を変え、カウンターウェイトとの相対的な位置関係を変化させることで、アームの共振周波数をコントロールするというものです。
トーンアームの共振周波数はそのアーム固有のもので予め決まっているため、特に語られることはありませんが、実は非常に重要な機械的特性であり、組み合わせるカートリッジもまた固有の共振周波数を持つため、両者の共振周波数の関係は再生音に大きな影響を及ぼします。
VARTERE は初めて積極的にこの共振周波数とエフェクティヴマス(実効質量)をコントロールすることで、組み合わせるカートリッジとの間で最適なポイントを得る手段を講じました。しかも小さなリングを追加するという実にシンプルな方法で。
リングの位置に目盛りがあるわけではなく、移動させながら再生音を聞き、最適と思われる位置を決めます。
- アームパイプとヘッドシェル
アームパイプはロール状に巻かれたカーボンファイバーを使用。
これにより引き抜き成形や成形材に比べて強度が高いだけでなく、より均質な繊維構造を実現しています。
ヘッドシェル部はアルミニウム合金から削り出され、アームパイプには構造的に結合された合金製インサートを介して強固に接続されます。
- アルミ・ベアリングヨーク、ステンレスピラー
上記ベアリングピボットは、アルミニウム合金製ヨークに固定され、ヨークアセンブリー(下の写真、左側)は、アームパイプ,メイン・カウンターウェイト,アンチスケート機構をサポートします。
メイン・カウンターウェイトは、ピボットポイントに対して重心が可能な限り低くなるように垂直方向に下げて配置され、これによりトーンアームを最も安定した状態に保っています。
- カウンターウエイト・ロケーター
また、新開発のカウンターウエイト・ロケーターは、ウエイトを正確な位置へ再配置させること出来る便利な機能です。
- メインベアリング・アッセンブリー
メインベアリングには上級モデルであるSG-1 と同様、精密に研磨されたステンレススチール・スピンドルと超精密タングステンカーバイド・ボールが使用されています。
これらを収めるリン青銅製ハウジングは極めて高い加工精度をもって製作されています。
モグハダム氏のオリジナルアイデアである有名なスピンドルキャップは、こうした高度な精密加工により初めて実現するもので、レコードの位置を決めた後に先端のキャップを外すことが出来、これによりレコードのセンターホールがプレーヤーのセンタースピンドルに触れないことで、ベアリングから上がってくるスピンドルの微小振動がレコード盤に直接伝わらないよう配慮されています。
- モーター・アッセンブリー
モーター部の基本構造も上級機SG-1 のそれを踏襲しており、ハイスピード・シンクロナスモーターをアルミ合金ケースに収め、高精度ベアリングを介してアセタール樹脂製のベース部に取り付けられています。
モーターは3本の先端の尖ったスパイク型ビスによって正確に位置決めされ、かつ振動が伝わるのを抑えています。
モーター自体は独自のサスペンションによって数十度回転することが出来、これによりモーターに掛かる負荷変動を吸収します。この独創的、かつ巧妙な構造によりモーターは常にプラッターと同期して回転し、一定の力でベルトを駆動することが出来ます。
こうしてプラッターを変動のない一定の速度で回転させることが出来るわけです。
また、モーター・アッセンブリーは吊り下げる形でアウター・トップボードにマウントされていますので、重要なプラッター&トーンアームの載るインナー・トップボードとは2重にアイソレートされていることになります。
- メイン・プラッター
高い精度で加工されたアルミ合金製一体型プラッターは均一な慣性力を生み、スムーズで安定した回転を得ることが出来ます。
このプラッターとレコード盤を取り持つインターフェースとして、上位機種にも使用されている3mm 厚キャストアクリル製のマットが接着により一体化されています。
これによりレコード盤との最適な接触“インピーダンス”を得ているわけです。
- 新モータードライブ TEMPO
内部回路はマイクロプロセッサーをベースにした独自開発で、高精度のデジタル波形を生成、オンボードDAC を介してアナログ波形に変換します。このときサインとコサイン波の2つの波形を生成して、2つのブリッジアンプで増幅しモーターに電力を供給します。
また、本体の下側に設置されたモーターノイズ(振動)を除去するための微調整用ポットに簡単にアクセス可能。使いやすさも追求しました。
- オプションで、全体を覆うフル・ダストカバー(写真上)と、前面・背面を開放としたライト・ダストカバー(写真下)が用意されています。