[CD-R盤・2枚組]
ブルックナー/
交響曲第8番 ハ短調(ハース版)
テ・デウム ハ長調
オットー・クレンペラー指揮 BBC 交響楽団
ヘザー・ハーパー(S)、ジャネット・ベーカー(MS)
リチャード・ルイス(T)、マリアン・ノヴァコフスキ(Bs)
BBC 合唱団
2枚組。クレンペラー/BBC 響他によるブルックナー交響曲第8番とテ・デウム。
交響曲が1959年、テ・デウムが1961年の、ともに放送ライヴ録音。
英国人コレクターからの提供音源で2曲とも英BBC 放送のエアチェックと思われる。
2曲とも聴衆を入れずに行われた放送のための録音で、交響曲第8番については後述するが、これは今まで1964年2月2日録音としてディスク化されていた演奏。但し、既出盤はヒスノイズが非常に多く、ドロップアウト(音飛び、音切れ)が頻発、録音テープの劣化によるポップノイズが散見されるなど、鑑賞に堪える音質ではなかった。当ディスクの音源は他のリスナーによるエアチェック別音源か、既出盤音源の数世代前のコピー元オリジナルまたはそれに近い音源と思われ、僅かにヒスノイズが残るもののドロップアウトもなく、1950年代末の放送録音の水準を上回る良好な音質でストレスなく音楽を楽しめる。
先に1964年録音と誤記されていたと述べたが、1964年に放送が行われエアチェックされたらしく、当時は、高価ではあるものの家庭用の高性能テープレコーダーが普及していた時代であり、BBC の好録音に加え、良好な音質で音源が残された理由も理解出来る。
ディスク化に当たっては、第1・第2楽章に比べて第3・第4楽章の録音レベルが高かったため(長大な作品だけに2台のレコーダーで録音したのだろう)、音量を揃えたほか、周波数レンジを若干拡大し高音域を伸ばす作業を行った。
テ・デウムは交響曲を上回る良好な音質で、交響曲よりも2年後の録音という技術の進歩を感じる。ディスク化に当たってはほとんど手を加える必要もなく、ヒスノイズを若干低減する処理のみ行った。両者ともBBC の録音であるから、派手さのない堅実な録音ではあるが、情報量は豊富で手慣れた職人的巧さを感じる。
クレンペラーは1958年10月、チューリヒの自宅で寝タバコによりシーツが燃えて大やけどを負った。一時は重体となるほどで、同年予定されていたバイロイト音楽祭(マイスタージンガー)やオランダ音楽祭(トリスタンとイゾルデ)など重要公演を含むすべての公演のキャンセルを余儀なくされた。皮膚移植を繰り返すなどの治療の結果、翌1959年7月頃にはようやく回復し、9月初旬のルツェルン音楽祭に出演して約1年ぶりに指揮台に復帰。10月1日からは英EMI にフィルハーモニア管とモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」のレコーディングを開始する。しかし直後に一時的に体調が悪化(急性良性心膜炎と言われる)、一部録音したのみで4日で降板(ジュリーニが代役でレコーディング)。短期間の療養後、22日から29日かけてフィルハーモニア管とベートーヴェンの交響曲第5番、第3番、序曲をレコーディング。11月にはロイヤル・フェスティバル・ホールでベートーヴェン・フェスティバルが開催され、クレンペラーは交響曲全曲のほか、序曲や3曲のピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲など全8回のコンサートを指揮している。
当ディスクに聴くブルックナーの交響曲第8番は1959年のBBC による放送録音だが、録音月日が特定されておらず、上記クレンペラーの行動記録(+療養期間)から推測すると、ロンドン滞在時期の9月下旬以降の録音と思われる。ただし、10月までは病気やレコーディングで余裕がなく、11月以降がより正確かも知れない。
なお疑問点として、当録音含めて現在3種確認されているクレンペラーによる交響曲第8番の全曲録音について、1957年ケルン放送響への客演と、1970年英EMI へのスタジオ録音ではノヴァーク版を使用しており、ケルン放送響への客演2年後の当録音のみハース版を使用していること。
理由は不明だが、もしかすると録音年は1959年ではなく1957年以前である可能性もある(ノヴァーク版出版は1955年)。
一方で、レジナルド・グッドールが1969年にBBC 響と同曲を演奏した際もハース版を使用する一方、1971年に第7番、1974年に第9番を同響と演奏した際にはノヴァーク版を使用しており、BBC のライブラリーにノヴァーク版(1955年発刊)のパート譜がなかった可能性もある。英国ではブルックナーへの理解が遅れており、当時はBBC も出版譜に対する関心が低かったのかも知れない。いずれにしても今後の調査が待たれる。
クレンペラーは、英EMI と長期のレコーディング契約を締結後、当初からブルックナーの録音を希望したが、プロデューサーのウォルター・レッグに、ブルックナーに対する理解が遅れていた(要は人気がない)英米市場における販売面のリスクを理由に拒まれた。
結果的には1960年に第7番の録音が実現、1970年までに第4番から第9番まで主要作品の録音を残すことが出来たが、希望が叶わない1950年代には「放送であれば英国で演奏も録音も出来る」と考えたか、BBC 響とは1955年に第7番、前述のように録音年にやや疑問はあるが1959年に当ディスクに聴く第8番、1961年第6番を録音。この第6番と同じ日に当ディスク収録のテ・デウムも録音された。言わば英国におけるブルックナー不遇の時期の演奏・録音と言える。
クレンペラーは前述のように、当ディスク以外にブルックナーの交響曲第8番を1970年英EMI にニュー・フィルハーモニア管とスタジオ録音したほか、1957年にケルン放送響と放送録音。また、1924年独ポリドールに第3楽章のみベルリン国立歌劇場管とスタジオ録音していた。
一方、テ・デウムはスタジオ録音を残さず、当ディスクが現在確認されている唯一の録音である。
※総合カタログは下記を参照下さい:
https://www.ne.jp/asahi/classical/disc/index2.html
*【ご注意】
当商品はCD-R盤です。CD-Rは通常の音楽CDとは記録方法が異なり、直射日光が当たる場所、高温・多湿の場所で保管すると再生出来なくなる恐れがあります。
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