[CD-R盤]
ベートーヴェン/交響曲第9番 ニ短調 OP.125
「合唱」(チェコ語歌唱)
ドラホミーラ・ティカロヴァー(S)、ヴィエラ・クリロヴァー(A)、イヴォ・ジーデク(T)、ラディスラフ・ムラーズ(Br)
ジョージ・セル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
チェコ・フィルハーモニー合唱団
1959年6月3日、プラハ・スメタナ・ホール
モノラル、ライヴ収録
ジョージ・セルが「プラハの春」音楽祭に参加、チェコ・フィルを指揮した際の記録。
音楽祭最終日の閉会コンサートではベートーヴェン第9の演奏が行われるが、当時の慣例としてチェコ語による歌唱となっている。
ドイツ在住ロシア人コレクターからの提供音源で、音質の良さからエアチェックではなく放送局保管音源のコピーと思われる。
チェコ(録音当時はチェコスロバキア)は、スプラフォン・レーベルに代表されるように東欧諸国の中では録音技術が優れており、放送局のライブ録音も当時の西側諸国に劣らないと言われるが、当ディスクのオリジナル音源の状態もヒス・ノイズも極小で各セクションのバランスも良好。当時のライヴ録音としては十分に優秀な状態。
但し、放送録音らしいと言うか、良い意味での演出は皆無で、会場で鳴っている音を「とりあえず収録しました」という印象で、高域や低域を無理に伸ばさない中域主体の音作り。音楽祭ライブという祝典的雰囲気、ベートーヴェン第9のスケールの大きさなどは感じさせず、こぢんまりとまとまってしまっている感は否めなかった。
ディスク化に当たっては、周波数バランスを中域主体からフラット・バランスへ修正、併せて周波数レンジも拡張、また中・高域に若干のピークがあったため修正。第4楽章声楽部分にリミッターがかかっていたため音量の調整等、いくつかの補正を行った結果、ベートーヴェン第9らしいスケールの大きな響きを復元することが出来、一般的な鑑賞には不満のない状態となった。
ジョージ・セルは母親がスロヴァキア人であり、第二次世界大戦前、プラハのドイツ歌劇場の音楽監督に就任するなど当時のチェコスロヴァキアとの縁は深く、チェコ・フィルとは、英HMV にレコーディングを行うほか(ドヴォルザークの「新世界から」、カザルス独奏によるチェロ協奏曲はよく知られている)、しばしば客演も行った。
戦後は、セルが活動の拠点をアメリカに移したため、チェコ・フィルとの関係は薄れたが、それでも1959年の当公演、1963年ザルツブルク音楽祭において共演している。
当公演の演奏は、セルが音楽監督を務めていたクリーヴランド管との演奏と基本路線は同様だが、セルはチェコ・フィルに対してクリーヴランド管ほどのアンサンブルの精緻さは求めておらず、引き締まった機能美よりも、中欧の団体らしい木質的な暖かさ(チェコ・フィルの弦や管の渋さが理由か)、鄙びたローカルカラーが感じられるところが興味深い。
また第4楽章のチェコ語歌唱も、当時はそれが常識だったためか違和感なく聴ける。
なお、当公演では、交響曲第9番の前に「コリオラン」序曲が演奏されており、こちらは以前、海外でCD化されていた。
ちなみに当公演時のエピソードではないと思われるが、ある時、セルとチェコ・フィルのリハーサル休憩の際、楽員の一人が同僚にチェコ語の方言?で、セルのことを「仏頂面だからなあ」と言ったところ、すかさずセルが「そんなことないさ」と同じ方言で返したという。楽員は、セルをハンガリー系または独墺系と認識しており、チェコ語が理解できるとは思わなかったのだろう。セルは東欧やロシア語も含めてヨーロッパ諸国の十数カ国語が堪能だったと言われ、公開レッスンでもヨーロッパ各地から集まった学生が様々な言語で質問しても、通訳を介さずに学生の使った言語で回答していたという。
第二次世界大戦前の独墺系の指揮者は、ドイツから旧オーストリア・ハンガリー帝国領内、さらにはロシアまでの広大な地域の歌劇場間で転職を繰り返しながら、より高いポストにステップアップしていくことが通常の出世ルートだったから、各地の言語を習得することは必須だったのだろう。
ジョージ・セルは当ディスク以外に、ベートーヴェンの交響曲第9番を1961年米コロンビアにクリーヴランド管とスタジオ録音したほか、1968年にニュー・フィルハーモニア管、1969年にウィーン・フィルとのライヴ録音がある。
※総合カタログは下記を参照下さい:
https://www.ne.jp/asahi/classical/disc/index2.html
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