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待望のトーレンス復活、久々に日本再上陸を果たしました。
実は140年にも及ぶ長い歴史の間には様々な変遷があり、いわば現在のトーレンスは第3世代とも言うべき新生トーレンスなのです。
日本への輸入が途絶える前、トーレンスの第2世代にあたる前オーナーの時代には、それまでの伝統に縛られない新しいスタイルを導入、ラインナップもプレーヤー以外にまで拡充するなどのテコ入れを図り、現地ヨーロッパではそれなりの売り上げを挙げていたと聞いていました。
しかし日本ではそれらが裏目に出て、もはやかつてのトーレンスの面影は無いとの評価もあり、輸入自体が打ち切りとなりました。
それ以降もメーカーとしては事業継続しているのを知ってはいましたが、今のような状況では国内再導入は当分無いだろう、と考えていました。
今回再上陸のきっかけとなったのは、2018年から強力なリーダーシップで牽引する新オーナー、自身も技術屋であるグンター・キュルテン氏が、自ら敬愛するトーレンス・ブランドの立て直しを敢行、それがほぼ軌道に乗って、日本に導入することの出来るラインナップが揃ったことでした。
こんなトーレンスを待っていた!
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Gunter Kurten, owner,CEO
トーレンスのプレーヤーは、すでにTD1500 に続いて中核モデルTD1600,TD1601 が発売されましたが、それに続くTD124DD はこれまでの標準ラインナップからは少し離れた特別な存在です。
それは外観をご覧頂くとすぐ分かります。
TD1500,TD1600 はそれぞれイメージモデルとなったオリジナルは存在しますが、伝統を守った上で現代のテイストで全く新しくデザインされています。一方TD124DD は、あの有名な、トーレンスの代名詞ともいえるオリジナルのTD124 を細部に至るまでかなり忠実に再現しています。なぜ?
それは、キュルテン氏が自身特別な愛着のあるオリジナルのTD124 をリスペクトして、その独自の魅力あふれる外観,機能性を敢えてそのまま再現することに拘ったからなのです。
TD1500 やTD1600 にも元になったオリジナルモデルがあると申しましたが(TD150, TD160)、これらをそのままのデザインで再現してもいかにも時代遅れ、古めかしく見えるだけです。
それに対してTD124 はオリジナルそのままで再現しても、懐かしくはあっても決して古めかしくは見えません。時代を超越したデザインといえますが、これはTD124 の出自がプロフェッショナル機であり、余分を排したシンプルな機能美に徹しているからでしょう。
プロ機であったため、当初からキャビネットは無く、メインシャーシから上の部分だけで販売されていました。スタジオのコンソールなどに埋め込んで使われるからです。
しかし目利きの一般ユーザーがその優れた内容に目を付け、アフターマーケットで専用キャビネットをあしらってプレーヤーとして使い始め、それが評判を呼んで今日よく見られるTD124 の形として知られるようになりました。
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TD124 original
外観については再現するなら徹底しないとオリジナルの良さは出ず、似せて作ったまがい物にしか見えません。
TD124DD はちょっと見ではオリジナルと見紛うほどで、メインシャーシは鋳物の型まで新規に起こして生産しています。各部の作り込みも半端ではありません。
但し、目的は決してオリジナルの「復刻」ではありません。単なる復刻では改めて今TD124 を作る意味は無く、それならオリジナルをメンテナンスして使ったほうがよいでしょう。
性能・音質を左右する肝心の中身についてはオリジナルとは全く別物で、完全に現代のアナログ・プレーヤーとして設計されています。
例えば多くの方が駆動方式はアイドラードライヴ(リムドライヴ)だろうと思われるかもしれませんが(実際にはオリジナルTD124 はベルト&アイドラードライヴ)、TD124DD は型名から分かる通りダイレクトドライヴです。
もちろんアイドラードライヴも検討されましたが、現代のアナログプレーヤーの基準ではアイドラードライヴは性能,安定性等や音質面から選択肢とはなり得ませんでした。
それではTD-1500 やTD-1600 と同様、ベルトドライヴかというと、安易にその選択も採られていません。
TD124 のアイドラードライヴで一般に認識されている力強さ(実はアイドラードライヴは決してプラッター駆動力が強いわけではないのですが),押出し感や、安定感といったものを表すために、敢えてTD124DD では新設計のダイレクトドライヴが採用されました。
それでは各部を詳しく見ていきましょう。
- THORENS 製新開発12極高精度ダイレクトドライヴモーター
TD124 のために高精度の12極ダイレクトドライヴモーターが開発されました。ベアリングにはデルリン(POM)が採用されています。
プラッターは3.5kg の非磁性アルミ製となり、中央部は回転子としてモーターと一体化しています。
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ダイレクトドライヴモーター
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プラッター裏側、ストロボ・パターンの色や模様がオリジナルを彷彿とさせます
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ダイレクトドライヴモーター等電気系の設計担当、ワルター・フックス
- 新開発のダイナミックバランス型トーンアーム TP124 を搭載
今回のトーレンス・プレーヤーにはどれも日本で人気の高いユニヴァーサル・タイプのアームが搭載されているのが大きな魅力です。
TD1500,TD1600,TD124DD、いずれもちょっと見には同じように見えるアームが着いていますが、それぞれはすべて別物。各モデルに対して専用設計のアームが着いているのです。
これが実は大変なことで、トーンアームの開発には大きな手間と時間,コストがかかります。それにもちろんそれぞれを作り分ける技術も。
TD124DD にはダイナミックバランス型のトーンアームが搭載されています。
これにはちゃんと理由があり、オリジナルTD124 で標準アームであったTHORENS BTD-12S が同じくダイナミックバランス型で(プロ機として設計されたため)、それを踏襲したわけです。これも音質上124 らしさの再現に一役買っています。ご覧のように外観デザインもオリジナルへのオマージュです。
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THORENS BTD-12S 旧トーンアーム
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TORENS TP-124 新型トーンアーム
ところでこの特徴的な支点ベアリング部分の円筒形カバーを見て、EMT のトーンアームに似ているな、と思われた方、その通りなのですが、実は日本でも有名なこのEMT アームは、当時同じ工場でプレーヤーを生産していたトーレンスがEMT からの依頼でOEM 生産していました。元々がトーレンスのオリジナル設計ですので似たデザインとなっているわけです。
針圧はスプリングによる加圧式で、支点カバーにある数値直読式のレバーで合わせます。カウンターウェイトは最初に水平バランスを取るために利用します。
カウンターウェイトは標準タイプに加えて重量タイプも付属していますので、Ortofon SPU のような重量級カートリッジにも対応します。
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大小2つのカウンターウェイトが付属
水平軸受けには、特殊オイルを使用した日本製高精度ボールベアリングを採用しています。キュルテン氏いわく、ドイツはもとより世界中で最も優れていたのがこの日本製ベアリングだったとのこと。
アームリフターにはTD1601 同様、特許取得の電動アームリフターを採用。これが実に静かでウルトラスムーズ!
操作はアーム手前のレバースイッチで行いますが、このスイッチは左側の回転ON/OFF,兼回転数切替えレバースイッチと同じ形状として、左右シンメトリー化を図っています。
アームの高さ調整も大変行い易く、支柱根元にある二重リングの上側のロックを緩め、下側のリングを回すことで微調整出来ます。両方のリングとも、回すための専用レバーツールが付属していて便利です。
アーム高さに合わせて、電動アームリフターとアームレストの高さも個別に調整出来ます。
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アーム高さ調整機構(高さ調整ツールをロック・リングに装着したところ)
また、必要に応じて垂直アジマス調整も可能です。
アームベアリング・カバーのトッププレートを外し(プレートにある小さなビスを外す)、中央にあるアームパイプ固定ビス(六角)を緩めてアームパイプ僅かに回すことでアジマス調整を行います。
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アジマス調整ビス
インサイドフォース・キャンセラー(アンチスケーティング)は独自のシンプルな方式を採用、支点部分にあるバーに架けた極細ストリングがアームベースにあるルビー製リングベアリングを通り小さなウェイトに繋がっています。滑車やテコなどの機構部品が不要で音質に悪影響を与えない工夫です。
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インサイドフォース・キャンセラー
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アームを含めたターンテーブルの機構設計者、ヘルムート・ティーレ
- 余裕ある外部リニア電源部
十分な容量をもつ専用24V リニア電源を開発、独立した外部ユニットとしています。
一般的なパルス電源はノイズの発生が無視出来ず、このクラスのモデルには相応しくないとの判断です。
内部には余裕ある大型トロイダルトランスを採用、余裕あるフィルター回路と共に万全の電源を供給しています。
- バランス出力も装備
特にMCカートリッジ使用時にその性能を活かすバランス型出力を装備(XLR 端子)。
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- オリジナル・デザインへのオマージュ
TD124 の時代を超えて優れたデザインへのオマージュは、メインシャーシやトーンアームをはじめ細部に至るまで見出すことが出来ます:
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回転ON/OFF & 回転数切替えスイッチ
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プラッター・ビルトイン・EP アダプター「PUCK」
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プラッター・ブレーキ操作レバー
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回転数監視用ストロボ・スコープ
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メインシャーシを本体キャビネットからアイソレートする防振ラバー(「マッシュルーム」)
4点支持構造で高さ調整機能付き
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ビルトイン水準器
以下、ステレオ・サウンド・オンラインの動画も是非ご覧下さい:
オーナー、グンター・キュルテン氏自身による新生トーレンス紹介
黛健司氏によるグンター・キュルテン氏インタビュー